縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「あ、佐々先生ありがとうございました。昨日当直で僕の担当患者の急変対応して頂いたみたいで。引継ぎのメールも丁寧で助かりました」 「いえ、それも当直の業務ですので」  怜一がトレーを置くと同時に、隣の席に白川が陣陣取った。冷たくあしらわれてもめげずに、大げさなほど明るく胡散臭い笑みを浮かべて話しかけてきた。 「そうだ、知ってます?朝比奈くんってダイナミクス持ちなんですって」  最近は伊吹と白川が二人で話す姿をよく見かける。二人の距離近付いているのは間違いではないのだろう。でも。 「へえ、そうなんですか。それが何か?」  負けじと胡散臭い笑みを浮かべてみせた。せいぜい笑う。闇に落ち込まないように、膝をつかないように。  白川はすっと笑みを引っ込めて目を細めた。 「彼のプレイってどうでしょうねえ」 「それを私に聞いて、どうするんです?」 「さあ。でも一度浴びてみたいと思いません?彼のグレア。彼みたいに皆から好かれる人を暴力に引きずりこまれる瞬間、考えただけでぞくぞくする」  そんなことあいつがするもんか。大きな声で怒鳴りつけたかった。  知らないだろう、伊吹はどんなに丁寧に怜一を従えるのか。  今まで一度も怜一を蔑ろにしたり踏みつけにするようなことはしなかった。愚直なまでに怜一を尊重して、そして伊吹自身の意思も曲げなかった。     それがどれほど、難儀なことか。  欲に負けるのも相手を負かすのも簡単だけれど、本能と理性に折り合いをつけて、それでも自分の自由な感情を大事にすることがどれほど努力のいることか。  信頼のおけるただ一人のDomにかしずくことに、Subがどれほど満たされるのか。 「さあ、どうでしょうね」  喉元まで出かけた言葉が噴火する前のマグマのようにふつふつと煮えたぎっているが、わざわざ教えてやる義理はない。ランチのカレーとサラダを掻きこみ怒りと一緒に飲み下した。  水を一気飲みして、白衣の胸ポケットを上からそっと押さえる。 「でも、彼はあなたみたいなSubとはプレイしないでしょうね。・・あと十分でカンファが始まるので失礼します」  白衣の裾を靡かせて大股で歩く。ポケットの中で小さく折りたたまれた赤いリボンが控えめに存在を主張していた。    勢いで白川に啖呵を切ったはいいものの、実のところ怜一はそろそろ限界だった。襲ってくる頭痛と動悸、軽い睡眠障害。   伊吹とは仕事では顔を合わせていても、プレイはおろかリネン庫で話したのを最後にまともな会話すらしていない。以前はこれぐらい抑制剤でコントロール出来ていたのに、慣れとは恐ろしいと思う。 「ちょ、先生、危ない!」 「っと・・あぶな」  エレベーターの扉が開いた途端に出会い頭に伊吹にぶつかりそうになったのは、心ここにあらずでふらふらと歩いていたせいだ。何とか衝突を避けてふーっと息をつくと、伊吹は眉を八の字にして怜一の顔を覗き込んだ。 「先生、本当に大丈夫?」 「そういう君はどうなんだ、朝比奈」 「うん、俺は全然大丈夫だよ」  頷く伊吹に苛立った。歯がゆい、自分だけが大丈夫じゃないことも、必要とされないことも。だから、つい聞くつもりのないことを聞いてしまった。 「あいつとしたのか。白川和泉と」 「え、何を?どういうこと?」 「ごまかすな。だってあいつはSubだろう」 「白川先生がSub?そんなわけ・・」  首を傾げる伊吹に苛立ちが募り、詰め寄る。 「答えろ、君は白川とプレイをしたのか」
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