縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「コマンドに従う心地よさもトリップの多幸感もアフターケアで涙が出そうになることも、全部君が俺に教えたんだ、俺はもう君意外とプレイできそうにない。君以外に従いたくない」  等しく混ざった期待と不安が、感情のの許容量を超えて涙になって外にあふれ出てしまう。 「だから、君がどうにかしてくれ」 「あーもう。どうしてくれんの」  顔を歪めてぐしゃぐしゃと前髪を掻きむしると、怜一の頭を抱え込んで力任せに肩にぐいぐい押し付ける。スクラブに涙が染みてその部分だけ色が濃く変わった。 「そんな大事なこと、なんでこんな状況で言うかなあ。もう俺我慢すんの限界なんだけど」 「だから、こいつのこともこの辺で勘弁してやってくれ。過去にされたことを恨んでいないと言ったら嘘になるが、もういいんだ」  結果として今隣に伊吹がいるのだから、その点においてだけは感謝をしてもいいかもしれない。 「なんだかんだ優しいよね。ツンデレなの?」  伊吹は仕方ないなあと呆れ顔をしてPHSを取り出しコールをかけた。  意識を失っている白川の全身状態を確認すると呼吸や脈に異常はないが、当直を交代したほうがいいかもしれない。 「もしもし?やっぱまだ残ってたんだ。ちょっと今から当直室来てくれない?白川先生がドロップ起こしててさ。転棟サマリーが終わらない?そんなもん明日やれよ。じゃあ俺帰るから、あとよろしく」  そのまま一方的に通話を切る。手を引かれて慌てて後ろから小走りで追い掛けた。 「誰に話した?あの状況だと、君が加害者だと思われても言い逃れ出来ないんじゃないか。それに当直も・・」 「大丈夫だよ、呼んだの山瀬だから」  思いもよらない名前に、はあ?と素っ頓狂な声をあげると伊吹はくすくすと笑った。 「あいつDomだから。おかしいよね、うっかりコマンドやグレア使わないように、緊張しすぎていつもオドオドしてんの」 「本当に大丈夫なのか?」  着替えないまま外に出て車の助手席に乗りこむと、運転席からシートベルトをとめられる。密着していた体の温度と匂いを思い出して顔が熱を持つ。 「どうにかするでしょ。今から当直変わるとか言ったら、俺さすがに怒るよ?」 「でも・・」 「でも何?じゃあ先生は俺があいつにアフターケアしてもいいの?」 「それはだめだ」  即答した怜一の頭をぐちゃぐちゃとかきまぜてから伊吹はハンドルを握る。すでに日が暮れて夜の闇が色濃く落ち、正面を見つめる真剣な横顔をテールランプの赤い光が横切った。  久しぶりの伊吹の部屋で、緊張を拭えないままシャワーを浴びてリビングに戻ると、ソファでうたた寝をする伊吹とテーブルの上の赤いリボンが目に入った。 「ん・・ごめん、寝てた」 「いや、疲れてたんだろう」  伊吹は大きく伸びをしてから、ソファの自分の隣をぽんぽんと叩く。 「セーフワード、どうする?」 「いつもと同じでいい」  立ったまま答えると、なんとも言えない微妙そうな顔をされてしまった。 「俺はちょっと不満なんだけど。まあ、いいか。先生が変えたくなるまで、我慢する」  そう言い大きなため息をつく。 「こっちに『おいで』」  コマンドに従い足元に膝を座ろうとすると、今日はこっちねと手を引かれて隣に座った。 「『抱きしめて』」  おずおずと広げられた腕の中に身を寄せる。 「まずはさっきのケアをさせて」 「別にもう大丈夫だから」 「嫌だ、俺がしたいの」
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