縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 そう言われては従わない理由はない。恐る恐る体の力を抜いて薄いTシャツの胸元に身を任せると、湿った髪から水滴が落ちてきた。 「頑張ったね、ドロップせずにえらかった。俺を選んでくれたことも、信じて待っててくれたことも、すっげー嬉しい」 「・・ん」 「これを先生が持って帰ったんだって分かった時、俺、すっげー嬉しくてガッツポーズした。所詮カラーの真似事だけど俺を選んで受け入れてくれたんだなって思うとたまらなくて」  そこまで言うとテーブルの上のリボンを大事そうに手に取る。 「・・気付いていたのか」 「もちろん。先生はさ、DomがSubを支配して服従させてるって思ってるんだろうけど、俺はそれは違うと思うんだよね」  言わんとすることが理解出来ずに首を傾げると、弱々しい笑顔が返ってきた。 「Domは自分を選んで欲しくて従ってもらいたくて、プレイをするためにSubに許しを乞うんだよ。希望をくみ取って尽くして望まれるプレイをして、ひれ伏しているのはDomのほうなんだ。俺らも依存して縛られてる」  頭を手のひらで包まれて、額と額がぶつかる。至近距離で光を湛えた瞳と視線が交わる。 「俺も、先生がいい。他の誰かとプレイしたくないし、して欲しくない。倒れる寸前までプレイを我慢するぐらいプライド高くてストイックで、実は誰よりも患者さん思いで熱くって、でもプレイの時には俺に身を委ねてふにゃふにゃの可愛い姿も見せてくれて。そんなの好きにならないわけがないじゃん」  合わさった胸から氾濫寸前の濁流のような激しい血流が鼓動になって伝わって来る。自分のものか相手のものか分からない鼓動は、やがて同じ速さでお互いの胸を打つ。 「恋人もプレイのパートナーも先生がいい」  少しきついくらいの力加減で首にリボンが結ばれる。 「俺のことも縛ってよ」  声には出さずに頷いた。 「『脱いで』、全部」  最低限の間接照明だけが照らす薄暗い室内で、借りていたTシャツ、スウェット、下着の順に一枚ずつ脱いで床に落とす。オレンジ色の灯りがぼんやりと肌を照らすと、肌を晒す羞恥よりも今から行う行為への高揚感が勝った。 「『いい子』。上手だね」  頭をよしよしと撫でられる。いつも伊吹はふんだんにリワードをくれるけれど、今日はいつもよりずっと甘くて優しい。 「もっと、出来る?」  考える前にこくりと頷いた。 「『這いつくばれ』」  ラグの上に手をついて動物のような姿勢を取る。裸の背中に毛布を掛けられたように暖かい視線に包みこまれる。 「良かった、背中には傷は何もないね」  突然背筋をするりと指でなぞられて首を竦ませると、くつくつと喉で笑う声が降って来る。 「先生に傷の一つでもつけていたら、俺はあいつのこと一生許さない」  あながち冗談ではないのだろう。笑い交じりに話しているが、その声は地を這うように低い。 「『仰向けになって』。次は前を見せて」  転がるように背をラグにつけて仰向けになる。体を隠すものは何もなく、忠誠を誓ったDomの前にすべてを無防備に投げ出す。 「『いい子』。ちゃんと出来て偉い。こっちも傷一つないみたいだね。でも??」  欲を隠さない艶のある瞳で、怜一の全身を頭から足元までなぞり、体の中心部で目を止める。 「ここが、こんなになってるのはなんで?」 「あんまり、見るなっ・・」
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