縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「ん、イっていいよ」 「ふ、んん、あぁ」  後ろと同時に前も手で慰められ放出を促されると、ひとたまりもなかった。 「あ、あ、あぁぁ」 「くっ・・」  全身が痙攣し、後ろの口で含んでいるものをぎゅうぎゅうと締め付ける。渦巻いていた欲がついに限界を超えて、怜一はひときわ甲高い声で鳴くと、胸をしならせ手足の指をピンと突っ張り射精した。びくびくと震えたあとでゆっくりと体が弛緩する。  それとほとんど同時に、伊吹も体をぶるりと震わせて、一番深い場所で自分の縄張りを主張するように欲を吐き出した。 「はっ、はっ、やば・・」 「ん、やば・・」  伊吹は怜一の上から横にごろりと転がり力なく腕を広げる。 「怜一さん、『おいで』」  お互い汗とかそれ以外のよく分からない液体で濡れたままで、どちらからともなく体を寄せ合った。触れ合ったお互いの皮膚は、離れまいとするように汗でぴっとりと吸い付く。 「・・悔しい」  続く絶頂の余韻に肩を喘がせながら呟く。 「ん?何が?・・もしかして、怜一さんも上がやりたい?」 「違う。・・俺も君の名前を呼びたかった」  初めてプレイをした時以来セーフワードは伊吹の名前だった。今までセックスはプレイの付属品で、気持ちを交わした相手と体を繋げることなんて想定していなかったから。 「あーもう。そんなこと言われると、またやりたくなっちゃうんだけど」  耳元で囁かれた声は直接脳みそに触れて愛撫をし、まだ燻っていた快感の余韻に小さな火をつける。  今度は怜一から触れるだけのキスをした。気持ちを自分から伝えるのはまだ気恥ずかしい。交わす一瞬に精一杯の気持ちをこめる。 「ん、もっかい」  もう一度怜一の体の上に乗り上げて、伊吹はキスをねだった。  言葉にはしないけれど。怜一は今初めて自分のSub性に感謝をしている。もしSubでなければ伊吹とプレイも出来ないし、今この瞬間の特別な感情なやりとりも、快感だけではなく温もりを分かち合うようなセックスもなかったはずだから。  触れあうだけのキスを繰り返していると、新しく掘り当てた井戸で水が湧くように、心の中で愛おしさの水かさを増し、どちらからともなくもう一度体を繋げた。 「ねえ、今日朝顔市の日だよ。一緒に行こう」 「はぁ?今から?」 「朝顔は昼には萎んじゃうから朝からやってるんだって」 「よくそんな元気があるな」  あんだけやったくせに、と心の中だけで毒づく。  お互いが満足するまで抱き合ったあと、もう一度プレイがしたいと怜一からねだり(一生の不覚だ)、しまいにはくたくたに疲れは果てて動けなくなった。伊吹の手を借りてシャワーを浴びて気を失うように眠りに着いた頃には、すでに空が白みかけていた。  正気に戻った状態で顔を合わせるには、昨日(というか今朝)の記憶は生々しくて気恥ずかしく、同じベッドで体が密着した状態で背を向けている。 「どうせなら、朝顔一緒に選んで、んで一緒に世話してよ」 「なんで俺まで」 「ついでにカラーも買お。俺の分もね」  それはついでで買う物じゃないだろう。驚いて振り向くと、悪戯っぽく笑っているかと思ったのに予想に反して目の色は真剣だった。 「言ったでしょ。Domのほうが縛られてるんだった。ひれ伏すの俺のほうなんだよ」  ちらりと枕元に目をむけると、そこにはぐしゃぐしゃなった赤いリボンが無造作に丸めてある。
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