縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 約束通りに迎えに来た伊吹は、怜一に有無を言わさずに車に押し込んだかと思うと、一人暮らしの自分のアパートに連れて帰った。 「どういうつもりだ、朝比奈」 「どうもこうもないよ、そんな顔した先生を一人で帰せない。どっかのDomに連れ去られちゃう」 「それは君のことだろう」 「まあね。そういや、今日の日勤は大丈夫?」  看護師の夜勤とは違い、通常、医師は当直が明けても続けて日勤の勤務に入るのだが。 「部長から、今日は帰るように指示された」 「まあ、その顔色なら無理もないね」  体がぐらぐらと揺れてふらついたが、伊吹の手助けは断って交代でシャワーを浴びた。 「ねえ、今からどうしようか」  ソファで項垂れている怜一を見下ろして、しらじらしく伊吹が問いかける。 「俺のことを馬鹿にしているのか」  自分から、しかも仕事中にけしかけてきたくせに、いまさら何を言うのか。 「違うよ。ただ、自分で選んで欲しいんだ。DomはSubに選ばれて望まれて慕われるのが嬉しいの、知ってた?」 「知らない。俺はDomじゃない」 「選んでよ、先生」  一晩中降っても、まだやむ気配のない雨。雨音に潜む、二人分の欲。電気を付けていない薄暗い部屋の中でも、はっきりと目が合う。 「ねえ、する?しない?」  そんなの、ここに来た時から決まっている。奥歯がかみ砕けそうなほど食いしばる。怜一に選択権があるようでいて、実は選ぶ余地など微塵もなかった。絞り出した声にこらえきれない欲が滲む。 「さっさと、しろ」 「よかった、断られたどうしようかと思った。セーフワードは何にする?」  セーフワードとは、Domの命令が行き過ぎた時にSubがストップをかけるための  合言葉で、口にすればプレイは強制終了となる。最終的な決定権をSubが持つということを意味し、プレイの時の信頼や安心感にもつながるので、事前に決めておくのがマナーとされている。 「・・いらない」 「そういうわけにはいかないでしょ。そうだ、俺の下の名前、分かる?」 「あさひな・・いぶき」 「覚えててくれたんだね。じゃあ、どうしてもの時は名前呼んで。他にNGは?」 「あとに残るような怪我と極端に不衛生なこと以外なら、何してもいい」  伊吹が目を瞠る。怜一は目を閉じて、深く吸った息を吐き出す。 「手加減されるぐらいなら、思いっきりひどくされたほうがいい」  苦しすぎて、全部忘れてしまうぐらい。 「・・りょーかい。本当にいいんだね」  伊吹の目は笑っていなかった。それでも頷くと、突然、背中に石を括りつけられたような重圧がかかり、立っていられなくなった。 「・・あ、う」 「『おすわり』」  グレアとコマンドに素直に従い、両膝を割って床にぺたんと座り込み目線を合わせる。 「『いい子』、上手だね、先生」  当直室でのあれはほんのお遊びだったのだと、反抗する隙など一ミリも与えない威圧感のある声と視線に、かしずいてから気付く。 「『おいで』」  四つ這いで伊吹の足元に移動する。惜しみなく注がれるグレアは、干上がってひび割れた土地に降り注ぐ雨のように、飢えて乾いた体を潤す。豊かすぎて溺れてしまいそうだ。 「『舐めて』」  目の前に手が差し出された。怜一のほっそりとしたそれとは違う、ゴツゴツと節立った指に触れようとすると、 「『止めろ』。ねえ、誰が手を使っていいって言った?」
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