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第2章
四月下旬。平日の朝はちょうどいい気温のせいでやけに眠かったが、目覚まし時計を四つ準備していたおかげで、何とか朝起きることができた。通学路を歩いていると、次第に同じ制服を着た連中がぞろぞろと増えてくる。それも友達同士でテンション高く話している。
高校に入学してから一人も友達を作らなかったおかげで、仁以外に話しかけてくる相手はいないので、登校する時はイヤホンで音楽を聞きながら歩いている。
「お……う! さか……くん!」
近くで誰かが誰かに大声で話しかけているのが聞こえる。
「え! ……きさか……!!」
しかし聞こえてないのか無視されてるのか、その呼び声はさらに大きくなる。
「は……う!!」
早く返事してやれよ。俺が大音量で音楽聞いてるのに、こっちにまで声が聞こえるレベルだぞ、どんだけ無視してんだよ。しかもそのせいで音楽が聞こえづらいし。
大声に対して返事をしない誰かに苛立ちながら歩き続けていると、突然誰かに後ろから押された。
「うお!?」
押されたといっても大した力ではなかったので転ぶことはなかったが、反動で耳からイヤホンが外れてしまった。
「時坂くんってば!」
「あ!?」
よく見ると隣に冬月がいた。しかもなんか……怒ってる?
「人が歩いてるとき後ろから押すんじゃねえよ! 危ねえだろうが!」
「だって、何回もおはようって言ってるのに、全然返事してくれないから……!」
あ、さっきから大声出してたのこいつだったのか。
「音楽聞いてたから聞こえてねえだけだよ」
「そうなんだ。何聞いてたの?」
冬月はすぐさま笑顔になると、俺のイヤホンを当たり前のように掴んだ。
「秘密」
俺はその手からイヤホンを奪い返し、スマホから流れる音楽を停止させた。
「え? 何で?」
「お前には関係ねえだろ。つか、お前の家ってこの辺か?」
こいつと朝会ったのは今日が初めてだった。家が近いとすればこれからも会う可能性がある。やっかいだな。
「違うよ。僕の家はあっち」
「は? 逆方向じゃねえか。何でこんなとこいるんだよ」
「うん。だって、時坂くんはこっちから来るんでしょ?」
「ああ、家こっちだからな」
「うん。だからだよ」
え、何。こいつ話噛み合わねえんだけど。でもなんかすげえニコニコしてるし、これ以上突っ込むのはやめよう。
「転校してきてからね、時坂くんがどの方向から学校に来るのがずっと調べてたの」
「はっ?」
「時坂くんの家と逆だったのは残念だけど」
「こっわ……」
ヤンキーのトップとして毎日喧嘩に明け暮れてきた人生において、たった今、生まれて初めて他人に恐怖を感じた。
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