第1章

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 土曜日の昼間っから、今暇だからファミレスに来いと仁から連絡が来た。 「紗暗、お前、最近あの転校生と仲良いんだって?」  アイスコーヒーの入ったコップにさしたストローをくるくる回しながら、仁は頬杖をついてこちらを見る。まるで珍しいおもちゃを見つけたような笑みを浮かべているのが腹立たしかった。 「あ? 仲良いんじゃなくてつきまとわれてんだよ」 「嘘つけ。お前がつきまとってくるやつをボコらねーわけねえじゃん」 「あのなあ……俺はヤンキー卒業したの。つきまとってくるからって蹴ったり殴ったりなんかしねえよ。つか、あんなちっせぇやつ一発でも殴ったら病院送りだろ」 「はいはい。そういうのを仲良いっていうんだよ。噂になってるぞ。あの時坂がちっさい転校生と仲良くやってるとか、パシってるとか」 「仲良くねえし、パシってねえし!」 「にしてはよく一緒にいるよな」 「……バレたんだよ」 「何が?」 「あのことだよ」  ファミレス内に同じ学校の生徒がいないことを確認してから言うと、仁はストローを回すのをやめて、大きく目を見開いた。 「まじで?」 「まじで」  仁は俺がオタクであることを知っている。というか、こいつ以外は誰も知らない。はずだった。 「何で転校生にバレんだよ。何のためのその見た目だよ」  俺がヤンキーをやめてもこの格好を貫いているのは、オタクだとバレないようにするためだ。はじめこそ、この見た目じゃホビーショップで嫌というほど目立つし、店員や他の客に怖がれるしで、黒染めをしてピアスも外そうと思っていた。  だが、これはこれで利点があることに気がついた。この格好をしていると誰からもオタクだとは思われない。それも元々ヤンキーだったこともあり、俺とアイドルレンジャーを繋げるやつはいない。  つまり俺が自らオタクだと言わない限り、あるいはホビーショップで買い物をしているところを見られない限り、バレることはないのだ。 「限定フィギュア買いに行けなかったの、あいつのせいなんだよ」  アイドルレンジャーの限定フィギュア発売日に冬月とぶつかりそうになったことを話した。 「開店三分で売り切れるって言われてたもんだからな。無理だったんだよ」  思い出しただけでも涙が出てきそうで、思わず目頭を摘む。 「へえ。でも良かったじゃん」 「何も良くねえよ」 「その冬月クンだっけ? 同じ趣味を持った友達ってのも大事だろ」 「まあー、そりゃいないよりはいいけど」  だが、秘密は知ってるやつが増えれば増えるほどバレる確率が高くなる。それはバカな俺でもわかる。
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