第1章

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 俺の周りにはオタクに対してあまり良い印象を持たないやつが多い。だからできることならバレたくない。まだ仁と冬月の二人だけなら大丈夫だろうけど、これ以上は絶対に増やしたくない。 「ま、俺はいいと思うぜ? ヤンキー卒業したってなら、ヤンキーじゃないやつとつるむのは大事だろ」  仁はアイスコーヒーを飲み切ると、背もたれに大きくもたれて自慢の白い歯を見せて笑った。 「お前がいるだろ」 「そりゃ俺だってヤンキー卒業したけどよ。そうじゃなくて、元からそういう世界とは無縁のやつとつるむのも大事って話だよ」  仁は昔から俺と一緒に学校のトップをはってきたが、俺がアイドルレンジャーにハマったことがきっかけで、こいつもヤンキーを卒業した。 「それにあの転校生可愛い顔してんじゃん」 「は? 何言ってんの、お前。まあ、たしかに冬月の顔はかっこいいとは違うと思うけど」 「何だっけ。ほら、お前の好きな何とかシャーベットイエローに似てる気もするし」 「シャルトルーズイエローな」 「長いわ」 「つか、二次元と三次元混同してんじゃねえっつの。シャルトルーズイエローは現実にはいねえ。そこがいいんだからな」 「ま、何にせよ、お友達が増えたのはいいじゃねえか。お前、オタクだってバレるのが嫌で、高校入ってから友達作ってねえだろ」 「あー、それはそうだな」  仁の言う通り、高校で新しくできた友達は一人もいない。自分の秘密がバレないようにするために誰とも関わらないようにしてきたし、同じクラスのやつらも俺と関わろうとしない。  ヤンキーを卒業するために地元の連中が行かないような高校を受験したせいで、うちの学校で金髪なんて俺くらいだ。真面目な人間が多いこの高校ぇ友達を作ろうとしたところで無理な話だ。仁はうまくやってるみたいだけど。 「せいぜい嫌われねえようにな」 「だから仲良くねえし」  オタクの友達か。今までいたことないからわからないが、ようするに好きなもこ同じやつってことだよな。喧嘩なら仁だから、アニメは冬月ってかことか? ためしに自分が冬月とイベントに行ったり、グッズを買いに行ってるところを想像してみる。 「いや、ねえわ。どう考えてもねえわ……俺が冬月と仲良くとか。あんなひょろくてちっせえやつと仲良くなるなんておかしいだろ」 「何だよ。俺がいりゃ、十分ってか?」  仁がからかうように言う。 「あー、そういうことにしとくわ」  あいつは転校生だ。たぶん俺とはたまたま学校に来る前に顔見知りになったから、話しかけやすいと思っているだけだろう。そのうち飽きて、ほかの友達作ってそいつらと楽しくやっていくはずだ。今だけ。今だけ耐えればどうにかなる。この時は本気でそう思っていた。
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