17人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、ストーカーか?」
「もう音楽は聞かないの?」
「お前が話しかけてきたんだろうが! じゃなくて、人の話聞けよ!」
苛立って声を荒げるが、そんなことはお構いなしに冬月はほんの少しだけ背伸びをして、俺の耳元でささやいた。
「アイドルレンジャーのオープニングでしょ? 五人で歌ってるやつ」
その言葉に心臓が掴まれたかと思うくらい驚いた。
「お前、何で……」
「音、漏れてたから」
「音楽聞いてたの、わかってたんじゃねえか! 早く言えよ!!」
最悪だ……まじで誰も聞いてないよな? 音漏れって言っても歌詞が聞こえるほどじゃないよな? やばい。変な汗かいてきた。
「また明日もここに来るね」
「いや、来なくていいから。どんだけ遠回りしてんだよ」
「でも、音漏れしてても僕が隣にいたら大丈夫でしょ?」
「ん、ああ。まあ、たしかにそうだな……ってなるか! 音量下げたら問題ねえし、お前は一人で学校行け」
「えー、つまんない……」
話しながら歩いていると、なぜか突然視界の隅から冬月が消えた。驚いて下を見ると、何もないところで転んでいた。
「いててて……」
「ねえ、お前足の筋肉どうなってんの?」
「話しながら歩くってことあんまりなくて」
「関係ある?」
運動音痴とか言う問題じゃねえだろ、それ。
「やっぱり歩いてるのが奇跡だったんだな、お前」
「え? 何の話?」
それから冬月は学校に着くまでにさらに二回転んだ。何もないところで。
「保健室行って絆創膏もらってくるね」
「もう足全体に包帯巻いとけよ。じゃあな」
校門を抜けて校舎に向かっていると冬月がそう言ったので、さっさと一人で教室に行こうとしたのに、なぜか制服の裾を引っ張られた。
「一緒に行こ?」
「何でだよ」
「だって保健室の場所知らないもん」
「あ!? もう何なんだよ! まじで!」
「転校生だし……」
「あー、えっとな。あそこの校舎にガッと入って、真っ直ぐ廊下をバーっと進んで、あっち側にあるから」
「それじゃ、わかんないよ。それに仲間が困ってるときは、みんなで助け合うって、アイドルレン……」
「ちょ、お前!」
慌てて冬月の口を塞ぐ。
「せめて小声で言えよ! 周りに聞こえるだろうが!」
「ひっほに、ほへんひつ、ひほ?」
「何喋ってんのか、わかんねーよ」
冬月は制服の裾をさらに強く引っ張った。仕方なく保健室に連れて行くと、かすり傷とはいえ怪我だらけの冬月を見た養護教諭の女が、なぜか俺を疑いの目で見ていた。
「あなたまさか、この子のこと……」
「違えよ! こいつが一人でこけてんだよ!」
まったく迷惑な話だ。
「何かあったらいつでも保健室に来るのよ」
手当を終えた養護教諭は、やけに心配そうに冬月のことを見つめていた。膝のためにもこいつは一人で登校したほうがいいと思う。あ、あと俺のためにも。
最初のコメントを投稿しよう!