さぁ、悔いのない御食事を!

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   ──あなたはどんな時に、一番「幸福」を感じる?  私は手作り重箱の弁当に入ったおかずを取って、SNSにアップしながら考える。  どこの機関だったか忘れたが、興味深い調査結果を見たことがある。それは日本を含む世界数か国の人々に、「どんな時に一番快いと思う」のか選択肢から決めてもらうというものだった。  性行為や好きな人と過ごしたり、ハグすることが選ばれるなか、日本だけだった。「美味しいものを食べる」を一番に選んだ国は。  と、いうことはつまり! 日本人は一人でも幸せになれるのだ!  だから私は仕事場である建物の屋上にて、一人でご飯を食べていても十分……そう。十分、幸せ。  その想いを後押しするように、先ほどの弁当の写真に「いいね」がつく。  ぐぅ~~。  頭を使ったせいか、私のお腹が鳴る。これでは昼ご飯を食べている意味がないじゃないか。重箱の中身を食べ終えた私は、新たな菓子パンの袋を開けて頬張った。 「ま~た寂しく一人飯か? 野上(のがみ)」 「草薙(くさなぎ)先輩」  屋上にやって来たのは大学からの先輩であり、今の職場の先輩でもある草薙先輩だった。 「同期の奴らと一緒に食えばいいのに」  それにムッとした私は、おにぎりの包装を剥がしながら返す。 「余計なお世話ですよ。それに」  私の自分の周りにある昼ご飯の残骸──重箱にコンビニ弁当、総菜パン、菓子パンの袋などなど──を見せつけるようにして、告げる。 「こんなに食べるんですよ? 誰かと一緒に食べたら浮いて、迷惑がかかってしまいます」 「そんなことないと思うけど」 「あと、この方が私も気兼ねなく食べれていいんです」 「相変わらず変なとこで頑固だな」 「先輩は、からかいに来たんですか?」 「そうピリピリするなって。ほら、お前の好きな飯でも食って落ち着け」  そう言って草薙先輩は未開封のパンの袋を開けると、私の口に焼きそばパンを突っ込んだ。 「ふぁに、しゅるんでふか(何、するんですか)?」 「そんなブラックホール並みの胃袋を持つお前を、課長が呼んでんだよ」  モグモグ……ごっくん。 「え? 課長が?」 「喜べ……添乗員としての初仕事だ」  ここは国土交通省の外局、観光庁内にある「八百万(やおよろず)観光課」。日本にいる八百万の神様の観光を担当している課である。
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