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日本のグローバル化によって、神々への昔より信仰が弱まった。その不満のせいからか邪神化する神様が現れ、災いを起こし始めたのだ。
祓うことも考えたが、邪神とはいえ神様である。しかも邪神になったのも、もとはと言えば人間のせい。
そこで政府は対策として、「神様のQOL(Quality Of Life)アップ計画」を立てた。神様が邪神化しないように、不満を和らげようという作戦だ。
その一環としてできたのが、私が勤める「八百万観光課」である。
「課長! 私に仕事って本当ですか!?」
「落ち着きなさい。野上君」
駆け足で慌てて課長のデスクに来た私を、課長は手で制して言う。
「だって私、入庁してまだ一年の新人ですよ!? なのに神様の観光を担当するだなんて」
「だが、草薙君の傍で学んできただろう? それに君にしかできない神様がいるんだ」
「私にしか?」
「君に添乗してもらいたいのは、この神様だ」
そして課長に詳細が書かれた資料を渡された私は、そこに書かれた神様の名前を読み上げた。
「……『ヒダル神』?」
ヒダル神とは、西日本で伝わる存在だ。取り憑かれると猛烈な空腹や疲労を感じ、体が動かなくなって倒れてしまうというが……。
「課長、ヒダル神は神様ではなく『憑き物』ですよね?」
憑き物とは人に取り憑く邪悪な霊のことであり、神様とはまた違う存在だ。
「『神』って、名前についてるだろう?」
「で、でも」
「実際、邪神ほどではないが被害が出ている。そのためヒダル神には、満足してもらわねばならない」
「だったら余計、他のベテランの人の方がいいのでは……」
「いいや、君にしかできないんだ」
と、課長は断言し、そして続けて言う。
「ヒダル神は憑き物の中でも、『餓鬼憑き』の一種とされている。常に飢えと渇きに苦しんでいて、憑かれている間はいつ襲ってくるかわからない……そしてそれは満腹でも起きる。つまり」
「……つまり常に空腹で、大食いの私は適任だと?」
「野上君にとっても悪い話ではないだろう……ヒダル神に取り憑かれている間に出た食費は、すべて経費で出そう」
「え、経費で!?」
その言葉に私は目の色を変えて、身を乗り出して聞いた。私の変わりように驚いたのか、課長がたじろく。
「あ、あぁ」
「はい! 私、野上葵はヒダル神の観光を担当します!! ……やった。これであの大食い定食や食べ放題の店に、実質タダで行ける」
「ま、まだ決まったわけじゃないぞ! ちゃんと立てた観光プランが通って、正式に決まったらの話だ」
「わかりました。頑張って企画します!」
それから一か月後、私は正式にヒダル神の添乗員に決まった。
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