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料理の量が自慢というだけあって、一人前が他の店では二人前と言えるほどの量があった。
家系ラーメンではないのに、ラーメンの具材である野菜炒めが麺の上に山盛りになっていた。中太麵に味噌スープが絡んでとても美味しい。
それと同時に冷めないよう、サイドメニューの春巻きも食べる。
一口齧ると、熱々の中の具材があふれ出てくる。外のパリパリの皮と、中のトロリとした具材の食感の違いから飽きずに何個でも食べれそうだ。
餃子もすごい。
こちらも他の店の餃子より、一回り? いや、二回りぐらい大きい。羽付きではないが、皮はモチモチとしていて初めて体験する食感だ。具もギュウギュウに入っていて、ボリューム満点!
「美味し~い!」
「喜んでくれで、よかったよかった!」
「ありがとうございます。本当に美味しくて、頬っぺたが落ちそうです」
「落とさないでくれよ。まだまだ料理はあるからな」
「はい!」
私はこの感動を誰かと共有したくて、店主にとある提案をした。
「すみません。料理の写真を撮って、SNSにアップしてもいいですか?」
「いいけど。写真映えはしないぞ」
「写真映えするかどうかなんて関係ありません。この店の美味しい料理を他の人にも知ってもらいたいんです」
「……そうか。それなら、どんどんSNSとやらに上げてくれ! ほい、青椒肉絲」
「わぁ~!!」
私は写真を撮って、冷めないうちに素早くアップすると白米とともに頬張る。
《ありがとう。野上殿のおかげで、こんなに美味な物を食べることができた》
「いえいえ、こちらこそお礼を言わせてください。この店を見つけられたのはヒダル神様のおかげですから」
するとガラガラと店の引き戸が開き、客が入って来た。会社帰りなのか、サラリーマンの集団で、その中の一人の男性が店主に声をかけた。
「おっちゃん! 閉店ってどういうことだよ~俺、聞いてないって!」
「え? どこでそのことを?」
「SNSで流れてきたんだよ!」
彼は、SNSを表示したスマホ画面を店主に見せた。
そこには料理の写真とともに、「こんな美味しい中華屋『燦燦』が今日で閉店!? 来ないと損すること間違いなし!」と書かれていた。
「……これって」
私は食べるのをいったん止め、店主にネタ晴らしをした。
「私がさっきアップしたものです。自分、これでも大食い女子としてフォロワーが結構いるんですよ」
「フォロワーってのはよくわからないが、本当にありがとうよ。お嬢ちゃん」
それから足が遠のいていた常連や、私のSNSを見た新規の客が来て……店は満席になった。
私は最後の料理であるデザートの杏仁豆腐を食べ終え、ウーロン茶を飲んで一息を入れる。
「ヒダル神様、知ってますか? とある機関が調査で日本を含む世界数か国の人々に、『どんな時に一番快いと思う』のか選択してもらったんですよ」
《面白い調査だな。それでどうなったのだ?》
「すると他の国では性行為や、好きな人と過ごしたり、ハグすることが選ぶんですけど、日本だけ『美味しいものを食べる』を一番に選んだんです。つまり日本人は一人でも幸せになれるんです」
《そういう言い方をすると悲しい気もするが……》
「ですよね。でも、私はあることに気づいたんです」
《あること?》
「一人で美味しいものを食べて幸せになれるなら、好きな人や誰かと一緒に食べたら……もっと幸せになるんです」
私は美味しそうに料理を食べるお客さんたち、嬉しそうに料理を作る店主を
見ながら言う。
「今、私は一美味しいご飯を食べて幸せですけど、ヒダル神様や他のお客様と一緒に楽しく食べれたから──とっても美味しく感じれて、幸せです」
《皆で食べれば、もっと幸せか……その通りだ。私にとって食べるとは、生前に叶わなかった未練のようなもの。味など二の次で、ただ空腹を紛らわすものだった。だが今は、料理に込められた想いや味を感じることができる……これが味わうということなのだな》
「……そうですね」
こうして「大満足確定☆食い倒れツアー」ならぬ、「中華料理屋『燦燦』制覇ツアー」は幕を閉じた。
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