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「おい、東条! 待ちやがれ!」
その日、高校の卒業式を終え正門を出ようとしていた東条陸は、背後から聞こえた叫び声に思わず溜め息をついた。
振り向かなくてもわかる。声の主は、共に卒業を迎えた深海湊斗だ。
毎日のように殴り合い死闘を繰り広げた、犬猿の相手である。
陸が振り向くと、やはりそこには予想通り、仁王立ちで自分を睨みつける湊斗の姿があった。
「逃げんなよ、東条。俺は勝ち逃げは許さねェ。最後に一発殴らせろ」
湊斗は唐突にそう言って、バキバキと指を鳴らす。
けれど陸は、そんな湊斗を呆れ顔で見返すだけ……。
「相変わらずだね~、お前」
湊斗の喧嘩腰な態度は三年前から少しも変わらない。何度負けようが、湊斗は性懲りもなく立ち向かってくる。――卒業式を終えた、今日この時でさえ。
「でもさ~、俺たちさっき卒業したじゃん? チームのことは全部後輩に任せたし、お前に殴られる理由はないっていうか。そもそも俺、ほんとは喧嘩とか全然好きじゃないしさぁ」
「――なッ! ふざけたこと抜かすんじゃねェ! お前のせいで俺がどれだけの苦汁を舐めたと思ってる!」
「でもそれ、俺のせいじゃなくない? お前が弱いせいじゃん?」
「……っ」
――二人はこの男子校をまとめる二大勢力の各リーダーだった。
入学式に金髪&ピアス姿で現れた陸に、湊斗が喧嘩を吹っかけて返り討ちにあったときからの関係で、それ以降は別々のチームに所属し三年間対立し続けてきた。
二人がチームのリーダーになってからの勝率はほぼ五分。
だが湊斗が陸に個人的に勝てたのはほんの一度きりだ。
それだって、陸に三十八度の熱があり体調が万全ではなかったからである。
その因縁も、今日の卒業を持って終わったはずだった。少なくとも陸はそう思っていた。
けれど、湊斗からしたらそうは問屋が卸さなかったらしい。
「ほんっとにお前は口が減らねーな。ま、その達者な口がなきゃ、お前みたいなチビがトップなんて張れるわけねーか」
「はぁー? 俺はね、お前みたいに力で従わせたりしてないの。ちゃんと対話で信頼を勝ち取ってんだよ。それに何度も言ってるけど、これでも俺170はあるから。日本人男性の平均身長だから」
「それでも、俺からしたらお前がチビなことに変わりはねェ」
「――ハァア?」
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