カテよ、届け

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「インターハイ、ですか?」 「古澤志保のことは知ってるか?」 「それは、まあ」  古澤志保。これまで同じクラスになったことはないけど、同じ2年生の女子は一部で有名人だった。高校から陸上を始めた古澤はセンスの塊だったらしい。100mの結果をみるみる伸ばし、去年の秋の新人戦では県大会で入賞していた。それでもまだまだ粗削りらしく、築中高校初のインターハイ出場も夢じゃない、なんて言ってる奴もいる。実際、春先の記録会ではインターハイに進むのに十分なタイムを出していたはずだ。 「アイツは俺が指導していいかビビるくらい逸材だが、問題も色々あってな。細かいことは置いておけば、とにかくスタミナがない。去年の新人戦も、決勝までスタミナが持てば入賞どころか表彰台に立っててもおかしくなかった」  短距離は大会スケジュールによっては一日で予選、準決勝、決勝を走ることになる。複数種目に出場する場合はさらに増える。力のある選手は予選や準決勝はセーブして走るけど、古澤にはその辺りの加減がまだ難しいのかもしれない。 「だとして、俺にはどうしろっていうんです? 一緒に走り込みとか?」  まさか、と尾上先生は肩をすくめる。 「練習でどうにかなる部分はいいんだよ。アイツの問題はそこじゃなくて」  尾上先生は視線を下げる。そこにはご飯粒一つ、ほぐれたの身一つ残さず食べられて綺麗になった皿だけが残っている。そこまで綺麗に食べてもらえれば、作った甲斐があった。 「一番の問題は、食生活だ」  尾上先生が悩まし気にため息をつく。そんな先生の姿は珍しかった。 「そんなにひどいんですか?」 「まあな。成績が伸びないだけならまだいいが、このままだといつか怪我する」  その口ぶりからして、古澤の食生活は本当に酷いらしい。陸上競技に限らずスポーツはどれも体が資本で、筋肉の回復や強化と食事は切っても切れない関係にある。 「俺が言っても気聞く耳もたなくてな。そこで、水野食堂の出番ってわけだ」 「俺に、古澤の食事を作れと」 「そういうこった。それでアイツがインターハイまで進んだら、水野が卒業するまで料理部を存続させるのに必要な人数、陸上部から兼部させる。Win-Winだろ?」  もちろんインターハイは簡単ではないけど、古澤は既にタイム的には手が届くところにいる。つまり、南九州大会の決勝でそのタイムを出せればいい。悪くない勝負の気がする。  何より、他に部員を確保できる当てがないのだから、断るという選択肢がそもそもなかった。 「わかりましたよ。やれるだけやってみます」
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