カテよ、届け

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「君も毎日飽きないねえ」  スライサーで細かくした野菜を炒めていると、呆れと感心が半々くらいの古澤の声が聞こえてきた。意外にも、と言ったら失礼かもしれないけど、古澤は毎日練習後に顔を出した。それは5月に入っても続いている。 「古澤も、走るのは飽きないだろ?」  野菜に火が通ったらひき肉を加えて更に炒めていく。それから、事前にしっかり潰したトマトと水を足して、弱火で20分。 「……確かに、やってることは単純なのに飽きない」 「成長を実感できることはやってて飽きないし、きつくても楽しいもんだよ」  料理部に入ったばかりの頃の俺はひどい有様だったけど、先輩達に教えてもらいながらどうにか人に食べさせても問題ないくらいのものを作れるようになった。陸上の練習もひたすら地道だったりするけど、ある程度のところまではやっただけ応えてくれる。  煮えるのを待ちながらそんな話をしていると、古澤は顎に手を当ててじっと俺を見てきた。 「ね、君さ。妙に陸上に詳しくない?」  古澤がぐっと顔を寄せてくる。何やら疑うような表情だけど、別に隠し事があるわけじゃない。人差し指で古澤の顔を押し返す。 「俺も中学まで陸上やってたからさ」 「そうなの?」 「そうなの。まあ、俺は古澤と違ってセンス無かったから。正直羨ましいよ、お前のこと」  ふーん、と頷きつつも古澤は釈然としない様子だった。だけど古澤が何か言うより前にタイマーが鳴る。くつくつと煮える鍋にカレー粉を入れてもう一煮たち。調理実習室内に食欲を誘う香りがふわりと広がり、心なしか古澤もお腹に手を当てている気がする。  そうして出来上がったのが、具材のほとんど見えない具沢山カレー。皿によそう頃には古澤はすっかり定位置となった席で大人しく座って待っている。その姿に初日の嫌々感の面影はなくて、思わず頬が緩みそうになる。  いただきます、という合図とともに躊躇いなく古澤はカレーを頬張る。 「どう?」 「……おいしい」  古澤がダメなのは野菜の味と食感――って食べ物のメイン部分だと思うけど――だから、しっかり火を通して柔らかくして、濃い目の味付けなら食べてもらえた。そんなわけでカレーなら間違いないだろうという自信はあったけど、どうやら上手くいったようだ。  と、半分くらい食べ進めたところで、古澤はカレーを掬ったスプーンをじっと見つめる。 「あれ、大きめの野菜でも残ってた?」 「ううん。小さい頃に君みたいな人がいてくれたらよかったのかなって」  ポツリと零す古澤はどこか寂しげで。 「……古澤?」  呼びかけてみると、ハッと顔を上げた古澤が誤魔化すようにイタズラっぽく舌を出した。 「何でもない。明日も野菜が見えない感じでよろしくね!」
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