カテよ、届け

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 6月末に南九州大会が終わった。  古澤は100mの決勝まで進んだけど、そこで思うような走りができず7位。インターハイは来年にお預けとなった。  それで、尾上先生との兼部の約束もチャラになった。 「やっほー、水野君」  練習後の古澤が駆け込んでくると、迷わず定位置となった席に腰を掛けた。 「もう古澤の料理番は終わったはずなんだけどな」 「あれあれ、ほぼ唯一の部員にそんな言い方していいのかな?」 「部員っていっても料理つくらねーじゃん」 「水野君が作って私が食べる。Win-Winだよ」 「絶対に違う」  そんなやりとりを交わしつつ、料理の準備を進める。古澤が謎にキュウリだけは生でも食べられることがわかったから、今日は棒棒鶏を作る。といっても、下ごしらえは終わってるから後は盛り付けていくだけだ。  尾上先生との約束はチャラになったけど、古澤が陸上部から二人ほど巻き込んで料理部に兼部することとなった。南九州大会の翌日、古澤は入部届けとナプキンを持ってきた。作る気はさらさらないらしい。 「いやあ、南九州の決勝も前日に水野君の料理食べてたら勝てたと思うんだけどなあ」 「そんな魔法みたいな力はないぞ」 「ううん。ちゃんとこもってるよ、魔法」  古澤が意味ありげに笑う。出会った頃と違って古澤はコロコロと笑うようになって、時々そんな表情にすうっと視線を奪われる。  今だって、楽しげな古澤の顔に手が止まってしまっていた。 「それよりさ、水野君」  古澤はそわそわにこにこと笑っている。 「お腹すいた!」  盛り付け終わった棒棒鶏を差し出すと、古澤の満面の笑みが二割り増しくらいになった。  やっぱり、こうやって食べてくれる人の存在はありがたい。それに、料理部存続の恩があることには違いないし、頑張ってみよう。 ――来年はその笑顔を、決勝レース後に見られるように。
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