カテよ、届け

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「おう、水野。また腕を上げたんじゃないか?」  そんな言葉と共に尾上先生は鯖の味噌煮を口いっぱいに頬張った。  陸上部の顧問である尾上先生が料理部の活動拠点である調理実習室に顔を出したのが10分前。作り終えたばかりの鯖の味噌煮定食は既に無くなろうとしていた。 「それで、何の用です? まさか、ただ飯食いに来たわけじゃないですよね」 「まあ、待て」  尾上先生が満足げにハンカチで口を拭う。尾上先生は陸上部の練習後に時々こうしてやってきては小腹を満たしていくから、形だけの料理部の顧問より部活に顔を出すことが多かった。 「料理部の部員は確保できたのか?」 「……三人分、どうしても枠が埋まってないですね」  築中高校では、7月時点で部員数が8人を満たしていないと、部としての資格を失うこととなる。兼部するには今所属している部の顧問の許可をある必要があり、どこの部も安易な兼部は認めなかったり手続きが面倒だったりするから、人集めには苦労していた。  料理部はメインで活動していた先輩達が卒業して、この春から実質的な部員は俺一人となった。どうにか幽霊部員を集めたけど、まだ三人足りていない。 「だろうと思ってな。俺も水野食堂が無くなると困るわけだ」 「水野食堂って」 「それでだ。不足分を陸上部から兼部させてもいい」 「本当ですか!」 「ただし、一つ条件がある」  思わぬ提案に身を乗り出してしまった俺を尾上先生はすっと手で制した。  4月下旬になり、新入生も殆ど部活を決めてしまったから正直諦めかけていた。そこに差し伸べられた手である。料理部を保つためなら、毎日尾上先生の夕食を作るくらいやるつもりだ。  尾上先生はじっくりと間を置いてから、口角をニッとあげてほしい。 「水野。お前の力で古澤志保をインターハイに進めてほしい」
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