共喰いお雛さま

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「お母さん、わたしもお雛さま欲しい!」 「はあ? 奈子(なこ)、昔いらないって言ったじゃない。こんな怖い人形より、シルパニヤの可愛いウサギの人形の方が良いって」 「違うの! そのシルパニヤを撮影するのにお雛様が欲しいのー!」  そろそろ二月が終わりそうな時期。  学校から帰ってくるなり、奈子は夕飯の下ごしらえをしているお母さんに訴えた。  カウンターキッチンを挟んだ向こう、野菜を包丁で切るお母さんは顔も上げない。  シルパニヤとは、動物モチーフの小さなお人形さんシリーズだ。  昔からあるオモチャだったけど、昨今は子どもだけでなく大人もその可愛さと写真映えっぷりのトリコになっている。  奈子は昔からシルパニヤファンで、写真だっていっぱい撮ってきた。  けれど最近気づいてしまった。  自分が撮るシルパニヤフォトが、まったく映えない――地味でつまらないものだということに。 「だからね。季節感あふれる写真が撮りたいの。で、もうすぐひな祭りじゃん? お雛さまと写したらどうかなって」 「いいんじゃない? 和洋折衷、温故知新って感じで」  難しい四字熟語を使うお母さんに、奈子の顔がパッと明るくなる。 「でしょ? だから買って!」 「奈子のおこづかい何年分だと思ってるの?」  お母さんが太い大根を切り落として、冷ややかな声を出す。 「ですよねー……」  さすがに小六にもなると物の道理が分かるというものだ。  あきらめかけた、その時だった。 「あ、でも、佳乃子(かのこ)ちゃんのとこなら、お雛さまあるわよ。奈子が幼稚園の頃、佳乃子ちゃんちでパーティーしたじゃない」  佳乃子とは、近所に住む、奈子の十歳上のいとこのお姉ちゃんの名前だ。  今年大学を卒業し、就職して家を出る。その荷造りのために断捨離中で、こないだも奈子にお下がりの服やコスメや文房具をたくさんくれた。 「お願いすればくれるかもよ――って奈子!? どこ行くのよ、もう五時半よ!?」 「佳乃子ちゃんち行って来る!」  晩ごはん前には戻るから! と言い残して家を出て、奈子は夕焼けが沈む町を走り、佳乃子の家まで向かった。
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