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「俺は、言いたいことすぐ言う性格で、学生の頃はあんまりダチとか居なくて、地味だったけど、上京してデビューみたいなこともして。人に合わせられる人間になろうって、努力とかしたし」
「物怖じせずに言いたいことを素直に言えるのは立津のいいところなんじゃないか。俺なんて、空気ばかり読んで、遠慮して尻込みしてばかりだ」
「そんな恵比寿に、何度救われてると思ってるんだ。過小評価するなよ。お前が居てくれたから、自身がついたんだ。アンタのお陰なんだよ。いつも空気読んでるっていうけど、場の空気を温めてるのはアンタじゃん。俺、そんな恵比寿が好きなんだよ。居なくなったら困る」
何か、ドサクサに紛れて聴き逃がせないものが混ざっていた。
「ん? え? 立津は、俺が好き……?」
「デブは無理」
「告白された直後に振られた。どういうことだ」
「恵比寿のことは好きだ。だけど、デブは無理。体調のこととか心配になるだろう。ずっと心配してなきゃならないのは辛い。……って、なんでお前、泣いてんだ」
生まれて初めて告白された感動もさることながら、そんなに大事に思われていたと知り、ジーンと来るものがあった。
「そんなこと、今まで言ってくれる人が居なかったから……」
「親は?」
「デブです。揚げ物バンザイ」
「痩せろ。健康的に」
「はい、努力します」
「運動なら、俺も付き合うし。ゴルフとか行かね?」
ゴルフなら接待の練習になって一石二鳥。それを見越して誘ってくれているのだ。
落ち着いたら、空腹感が襲ってきてアキラの腹が鳴る。
「このあと、しゃぶしゃぶ行くか。先生が、目を覚ましたら一回確認して何もないようだったらそのまま帰っていいって」
「肉は太るんじゃないのか?」
「しゃぶしゃぶなら余計な脂を落とせて、野菜が沢山食えて良いらしい。それに、ラム肉がダイエットにいいって。ラムしゃぶの店、知ってっから」
「詳しくない?」
「お前がダイエットしてるっていうから、調べた」
「ぐすっ……」
「泣くな」
「いや、優しくて、つい」
「……重いとか、思わねえ?」
「恋愛したことないし」
キョトンとしている恋愛初心者に、危うさを感じる立津だった。
アキラは立津を恋愛対象として意識してこなかったから、好きだとか嫌いだとか、その辺りについては自分の感情がどういうものかわからない。だけど、少なくとも嫌いではなかった。今回のことで誤解があったと気づき、恋愛対象かどうかはわからないが、好意は抱いた。
しゃぶしゃぶの話をしたせいか、アキラの腹の虫が急かす。
「お腹が空いた」
「俺も。夕飯まだだし」
とりあえず、お腹を満たしてからにしよう。
――了
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