4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
私の通報で警察と救急が駆けつけたのは、それから数十分後のことだった。
窓の外の幼児は無事に保護され、程なく一人の女が逮捕された。
マンションの一室で子どもを密かに育て、日常的に虐待を行っていた母親だ。私と同じフロアに住んでいる人だったそうだ。
周囲にバレないように、声を出そうとしては殴り、物音を立てては殴るを繰り返していたらしい。
子どもは満足に食事も与えられず、保護されてからもずっと「おなかが空いた」と空腹を訴えていたのだとか。
幼児虐待なんて、どこか遠い場所での出来事だと思っていたが、まさか自分の身近で起こっていたなんて。
生きているのが不思議なくらいボロボロな幼児が、命懸けでベランダを伝って逃げ、必死に助けを求める。あの姿に感じた恐ろしさを、私は生涯忘れることはないだろう――。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!