夜中の窓を叩くのは

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 ――ここ、開けて……。  か細い声。風に舞うボサボサの長い髪。  小さな体にボロ雑巾のような服。  窓を叩く握りこぶしはどす黒く変色している。  顔は所々青く腫れあがり、ぱっくりと割れた額からは血が滴っていて。  愛らしさの欠片もない、無残な姿の幼児がそこにいた。 (そんな……こんな……こんなことが、現実な訳が……)  あまりの恐怖に全身の毛が逆立ち、高熱に侵された時のような悪寒が身体を走る。  足が震えて、一歩も動けない。  早く――早くしなければならないのに、指一本動かせない。  窓の外でガラスを叩き続けるズタボロの幼児の姿から、目が離せない。  ――おなか、空いたよ……。  ひび割れた唇から漏れ出たその言葉に、私は声にならない悲鳴を上げた。
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