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「ぜんっぜん駄目」
種月はテーブルに突っ伏した。
「そんなすぐいい人と出会える訳ないじゃん」
ビールを呷りながら、そう言って笑う。
「自分からいかないと駄目なんだって」
種月がマッチングアプリを始めて一週間。
その道の大手のアプリだが、一番安いプランにしたこともあって、なかなかマッチングしないらしい。
顔出しは怖いとか言って、ナルシストのインスタグラマーのような後ろ姿をアイコンにしているのも駄目だと思う。
女性にとっては顔も重要な採点基準なのである。
「分かった。じゃあ自分から声かける」
がんばれ、と言って笑うと、種月は他人事でしょ、と少しむくれた。
*
ふらつく足で家に帰る。
飲みすぎたのか、頭を内側から叩かれているようだった。
親にしつこく言われて渋々入ったオートロック付きのマンションは、少し狭かった。
鞄と上着を床に置いて、蛇口を捻る。
グラスに水が入っていくのを、ぼんやりと眺めた。
グラスがいっぱいになって、止める。
グラスの水を一気に飲むと、冷たいものが腹を流れ、頭がキンキンするのが分かった。
ため息を吐く。
ため息吐きすぎると老けるよ、と種月に言われたのを思い出して、もう一度ため息を吐いた。
ふと思い付いて、高校の卒業アルバムを出してきた。
自分のクラスのページを見ると、今よりも少し幼い笑顔の種月と、仏頂面の自分が映っていた。照明が眩しすぎて、目が開いていない。
それから、目の大きな女の子。
松野実桜、という名前を見詰めて、ため息を吐いた。
ピロン、と通知音が鳴った。
また飲みの誘いか、とため息を吐いた。
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