第15話 あなたが  ために、わたしは

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第15話 あなたが  ために、わたしは

「……まさか引き寄せてしまうとはな……、俺の不注意だ。俺のような『石を持つもの』が、英霊を祀っている可能性のある王城に近寄るべきではなかった」 「けれど陛下……招待を反故にするわけにも行かなかったでしょう?」 「それはそうだが、こうなると、さすがの俺も自身を呪いたくなる。……セント・ジュエルを巻き込むつもりはなかったのに」  ──後悔と諦めを混ぜたような。 「──ミリア。すまない。君の国に影響が及ばぬよう、御影の石を宿すものとして、力の限りを尽くすから」 「陛下……、謝らないでくださいよ。引き寄せ自体、『可能性がある』ってだけの話だったじゃないですか……」 「……ヘンリー。それでも、こうなってしまったんだ」    無抵抗で全てを受け入れるような。 「……陛下……」 「……苦労をかけてすまないな。もう新月まであと半月だ。できることをしよう。代わりの楔を用意してくれるか?」 「…………わかりました」 「────待ってよ!」  わたしは叫んで割り込んだ。  瞬間的に、攻めるようなヘンリーさんの視線と、彼の静かな視線がわたしに集まるが、口は、止まらなかった。   「ちょっと、待ってよ! なんで当たり前みたいに話が進んでるの? だって、おにーさん、死んじゃうんでしょ……!?」 「──なんでと言われても……そういうものだから(・・・・・・・・・)」 「……!」  顔色一つ変えずに答える彼に愕然とする。  ……そういう、もの、だから、って…………  なんでそんな『当たり前』みたいに言うの?  なんで普通で居られるの? 怖くないの?    そんな訴えを察したのか、エリック陛下は顎に指を添えながら──策略を伝えるようにわたしを見ると、 「……王子として産まれ、人柱(おう)の継承権を得た時から、この命は俺個人のものではないしな。民のため、国のために捧げるのが責務であり使命だ。取り乱すことでもないだろう?」 「取り乱すことでしょ!」 『…………』  叫ぶわたしに、返る視線は冷静だった。  なんで? どうして? わたし変なこと言ってる? なんでヘンリーさんも止めないの? なんで? おかしいよ、おかしいよだって、 「確かに王子だよ? 王様かもしんないよ! でも、その前におにーさんはおにーさんじゃん! エリックって名前があるじゃん! ひとりの人間だよ! それを、それを……『死んで当たり前』みたいに言わないでよ!」 「────ミリアさん」 「俺一人の命で済むならのなら、安いものだ」 「安いとか高いとかじゃない!!」 「ミリアさん」 「…………ちょっと、待ってよ…………ッ!」  最後は情けなく顔を覆ってた。  手のひらの中で鼻が痛む。でも、泣いてたまるか。  ねえ、命って大事でしょ? 大事じゃないの?  「────ねえ、なにかないの? エリックさんが、他の人も駄目だけど、命を使わない方法! 絶対何かあるでしょ、なんかある!」 「──……それについては、スレインの学者が永年調べ、試してきたがどれも失敗しているんだよ、ミリア」 「……!」  ──……諭すように言わないで。 「……これが『使命』なんだ」  何も言えなくなる。  諦めた顔しないで。  あなたの方が痛いのに、傷つけたって顔、しないで。  ギリギリ、ぎりぎり音がする。  心が鋭く音を立てる。 「…………ミリア。君を巻き込んで悪かった。こうなるなら、端から」 「ちょっとごめん、ひとりにして。受け入れらんない……!」 「ミリア!」  呼ぶ声を背中に、わたしは飛び出した。  彼が……、人柱であること・命を失うこと・もうすぐ居なくなってしまうこともそうだけど、なにより、まっすぐに『当たり前だ』と受け入れているのがつらかった。  生きてほしい。生きてほしいのに、彼はそれを諦めている。はじめから『先なんてなかった』と言わんばかりに、受け入れている。  城の隅、慣れ親しんだ森の中。  ぶつける場所のない葛藤を散らす様に、ただ走って──  ────ずるっ、 「わっ!?」  世界が揺れる。背中に衝撃。唐突に足を取られたと気づいた時には、滑り落ちてくぼみの中。  枯葉の上、仰向けのまま見つめるのは──木々に囲まれた夕映の空。  ……どんどん潤い歪んでいく世界を、瞼で塞いだ。  ……初めて好きになったの。  初めて大好きだなって思ったの。  はじめて、笑顔が見たいって思った。しあわせにしたいっておもった。なのに、なのに。 「────……っ」    溢れ流れる涙の原因が、痛みなのか、悲しみなのか。  わたしにはもう、わからなかった。
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