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第16話 本音
新月っていつだっけ。
たしか、月が見えなくなる夜だっけ。
昔の人は凄いよね。そういうので季節を数えて暦を作った。わたしなんか、そんなのに気づかず毎日へらへら生きてたと思う。
あー空がよく見えるなあ。穴の底にいるんだから当たり前か。
……雨なんて降ったの、少し前なのにね。葉っぱが湿って、何度も滑ってこの状態。『地味石ミリーはどろんこミリーになりました。めでたしめでたし』って? 全然笑えないよ。なーんにも面白くない。
「────あ────っ! 『死ぬとか信じらんない!』って言っといて、自分がこうじゃ顔向けできない────ッ!!」
くぼみの底から、空に向かって思いっきり叫んだ。何の音もしない。鳥も飛ばない。何か反応してくれてもいいのに。もう。
駄目だ、どうも感情が忙しい。虚無と苛立ちが行ったり来たりする。たまにぶり返す悲しみがめんどくさい。気を抜くとエリックさんの顔が出てくる。そのたびに心が揺れる。あの直後よりは落ち着いたけど。
「…………出なきゃ。こっから」
ぐっと膝に手をついて立ち上がる。泥まみれの手で頬を拭い、睨み据えるのは泥の坂だ。なんとしても登らなければならない。こんなところで死んでたまるか。
「……そうだ、木の棒でも差して足場作れば行けるかな……」
閃きに促されるように、わたしは足元を見まわして──
「…………ミリアさん?」
「……! ヘンリーさん!?」
突然降ってきた声に顔を上げた。暗がりを照らすランタンの中、ヘンリーさんがぼんやりと浮き上がり、がさがさと近づいてくる。
「ああ、よかった、見つけた。探しましたよ」
言いつつ、彼はぴぃ──と笛を吹き、流れるように縄を取り出すと、
「そこの木に縄、縛るんで。少し待っててもらえます? あ、歩けますか?」
いつもの口調の問いかけに、わたしは『はい』とひとつ答えた。
■■
二人で行く夜道は、決して『心地いいもの』とは言えなかった。
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