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第18話 しずくも いしになるんだよ
──『その顔、見たくなかった』と言ったら噓になる。
平気なふりして話してるけど、本当は怖い。
でも、やると決めた以上、怖がる様子なんて見せない。
……と決めたのに。
王国の霊廟・ぽっかりと闇を湛える墓の前。大きな声でわたしの名を呼んで、現れたおにーさんに……心が揺れた。
「──ミリア!!
君に聞きたいことが……ヘンリー……!? そこで何してる!」
「あ。」
焦りと動揺。息を切らせて寄る彼に、ひとつ。わたしは思いついたように相槌を打ち、すぅーと大きく息を吸い──
「おにーさーん! ちょっとわたし、底までいって一矢報いてくる〰〰!」
「──は!? 何言ってるんだ! 無理だ! ふざけるな! そこを離れろ!」
手を振るわたしに慌てて駆け出すエリックさん。それに呼応するように、後ろで闇が蠢き瘴気を放つ。
──ああ、これが『引き寄せ』かぁ……
後ろからわたしを襲う恐怖に背筋を凍らせつつ、呑まれぬよう息を吐くわたしに、彼は続けた。
「スタインが沈かなければ意味がない! やめてくれ! それよりミリア、君に聞」
「──わかんないじゃん」
血相を変えて述べる彼を遮って、わたしは強く、続きを告げた。
「一滴の水だって石になるんだよ。『絶対ないなんてありえない』」
「……ミリア……!? やはり、君は!」
「違うよ、無理しようとしてないよ? 勝算があるから言ってるの。無駄死にするわけじゃない。条件は満たしてる。鉱物の剣だってここにあるし」
「……それはッ……!? ──待て! 待てッ! 頼むッ!」
言いながら引き抜いたのは、わたしの大事な星屑のナイフ。ずっと大事にしてきたこの子も、きっと役に立ってくれるはず。
──さあ、いこう。
モリオン・水晶・天眼石。ブラックオニキス・マラカイト。紫水晶にパイライト。黒曜石にヒスイ。お守りにスモーキークォーツ・それと鍾乳石。
昔から、ねえさま達が転がした宝石や、愛されてない石を撫でるのが好きだった。くすんで色が悪い子・小さなゴミの入ってる子・色合いがおかしな子。みんな時間をかけて撫でると、綺麗に光を放ったり、艶めいてくれる。
石は、気持ちに応えてくれる。
ずっとずっと愛していくと、すごく煌めいてくれる。
それをここで使うのも、後悔はない。
犠牲になる気なんてさらさらない。
命を差し出すなんて絶対嫌。
でも、可能性を試さないのはもっと嫌。
セント・ジュエルの名において、大地が育みし宝珠の力──叩き込んでやる!
「────エリックさん。必ず帰ってくるから!」
すべての可能性を抱えて、わたしは床を踏み切り飛び込んだ。
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