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第18話 しずくも いしになるんだよ
怖い、怖い。何も見えない。見通せない。
落ちてる? 浮かんでる? それもわからない、暗い、昏い。体が竦む、怖くて動けない。
さっきまでの気合いも威勢も吸われたみたいに震えが止まらない。こわい、こわい。なんで? なんでどうして? 気持ちはあるのに体が言うこと聞かない。
落ちゆく中、エリックさんの『無駄だ』が脳に響く。お父様の『追放』が蘇る。
わたしが何してもダメ? やっぱり役になんて立てない? 大好きな人を生かしたいだけ。生きててほしいだけ。
暗澹が囁く。『愚かしい人の子よ』。
記憶が囁く。『地味石みりー』
悍ましいその声は、わたしの奥底に響いて────
「────ミリア! しっかりしろ!」
「──!」
ガクン! とお腹を掴まれた衝撃とほぼ同時、聞き慣れた声と背中を包む暖かさに、わたしは大きく息を吸い込み顔を上げた。
……いま、なにして……?!
焦点の合わぬ目で周りを一蹴、怨嗟飛び交う闇の中であることは代わりないが、さっきより見える……!? 急に落ち着いたのは、おにーさんが来てくれたから……!?
「──おにーさん!」
「待てと言っただろう! まったく、世話の焼ける!」
肩越しに振り向くと、そこには”いつものおにーさん”。
険しさの中に、挑発と決意を混ぜ合わせながら、奈落を見据え声を放つ。
「”暗澹たる闇を裂き、核を貫くは御影の魂”って言われてるんだよ! 怨嗟を抜けられるのは御影を宿すものだけだ!」
「……つまり最初からわたしじゃダ」
「──だから、俺が支える! 君を失うわけにはいかない! 失ってたまるか!」」
「……!」
頼もしい言葉と熱に、胸が震えた。
背中から伝わるあたたかな体温・彼の鼓動。
両掌を包む、彼の手の力強さ。
────ああ、うん、怖くない。
闇の向こうに光が見える。
怨嗟の声だって全然平気。
大丈夫。絶対大丈夫。
生きる。生きる。絶対帰る!
「しっかり握れ! 構えろ! 貫くぞ!」
「────うん!」
闇を裂き、力強く頷いて、持てる全てを、叩き込んだ。
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