8人が本棚に入れています
本棚に追加
最終話 地味石ミリーは選ばれない
「…………ああ、いいんだ」
わたしの不安を拭い去るように、穏やかな微笑みを変えずに応える彼。
そんな表情に心が緩む。迷いのない言葉に胸がときめく。
ほんわりとした安心と輝きを感じるわたしの前で、彼は青々とした草原を背負い、朗らかにほほ笑むと
「『──どこを旅するかより、誰と旅をするか。人生をどのように彩り、豊かなものにするかは、隣にいる人で決まる』。君と居ると、そう思えるから」
「…………ウ。うん…………」
優しく言われてに、つっかえながら頷いた。
……もう。
ほんと、期待するような言い方する。
特別みたいに言わないで。
もう、ほんと、もうっ。
……最初の『君が欲しい』もそうだったけど、この人『ずるい人』。
──”とくとく”とウルサイ心を必死に納めるわたしの前で、彼はというと──未来を見据えたような顔で語るのだ。
「……どのみち、俺はそのうち、城に勤めなければならない。それまでに少しでも見聞を広めておきたいし──、それに……」
穏やかに目を伏せ、一拍。
その整った容姿に意地悪を乗せ、わたしの顔を覗き込むと、
「──どこの世界に『命の恩人の頼みを反故する』人間がいるんだ? 俺、そんな薄情な人間に見える?」
「────……」
ためすように問われ、一拍。
目を丸めるわたしに、信頼と冗談の混ざった眼差しが入り込み──
……ふふっ。
「……見えないことないかな?」
「────フ! 言うじゃないか」
裏に大好きを乗せて笑った。
吹き出す彼に、わたしも笑う。
「ね、いこ? おにーさん!」
「はいはい、じゃあ、どこに行こうか」
「とりあえず北? 化生の悪影響の確認したい!」
「スレインに行くか? 本場が見れるぞ?」
「うわあ~!」
軽口をたたきながら、二人並んで歩きだす。
──わたしね?
彼と一緒に《思い出の人》を探すんだ。
『エリックさんが生きる力をくれた人』。
『彼をここまで導いてくれた人』。
その人にお礼を言いたい。
──”あなたのおかげで、わたしは世界を知れました”って。
それと……
『一緒に居ればそのうちチャンスが回ってくるかな』ーって……密かに思ってるのは、わたしだけのひみつ。
☆☆
──それは、旅立ちの日。
彼、エリック・マーティン──いや、エリック・スタイン陛下は、城門の内側でひそかに胸を躍らせていた。
意識せずとも頬が緩む。鼻歌まで漏れ出しそうだが、そこはぐっと堪えて荷物を詰める。
まずはどこに行こうかと想いを馳せる彼の、その頭の上から。聞きなれた側近の声は、確認する色で降り注いだ。
最初のコメントを投稿しよう!