最終話 地味石ミリーは選ばれない 

1/1
前へ
/53ページ
次へ

最終話 地味石ミリーは選ばれない 

「…………ああ、いいんだ」  わたしの不安を拭い去るように、穏やかな微笑みを変えずに応える彼。  そんな表情に心が緩む。迷いのない言葉に胸がときめく。  ほんわりとした安心と輝きを感じるわたしの前で、彼は青々とした草原を背負い、朗らかにほほ笑むと 「『──どこを旅するかより、誰と旅をするか。人生をどのように彩り、豊かなものにするかは、隣にいる人で決まる』。君と居ると、そう思えるから」 「…………ウ。うん…………」  優しく言われてに、つっかえながら頷いた。  ……もう。  ほんと、期待するような言い方する。  特別みたいに言わないで。  もう、ほんと、もうっ。  ……最初の『君が欲しい』もそうだったけど、この人『ずるい人』。    ──”とくとく”とウルサイ心を必死に納めるわたしの前で、彼はというと──未来を見据えたような顔で語るのだ。 「……どのみち、俺はそのうち、城に勤めなければならない。それまでに少しでも見聞を広めておきたいし──、それに……」  穏やかに目を伏せ、一拍。  その整った容姿に意地悪を乗せ、わたしの顔を覗き込むと、 「──どこの世界に『命の恩人の頼みを反故する』人間がいるんだ? 俺、そんな薄情な人間に見える?」 「────……」  ためすように問われ、一拍。  目を丸めるわたしに、信頼と冗談の混ざった眼差しが入り込み──  ……ふふっ。 「……見えないことないかな?」 「────フ! 言うじゃないか」  裏に大好きを乗せて笑った。  吹き出す彼に、わたしも笑う。 「ね、いこ? おにーさん!」 「はいはい、じゃあ、どこに行こうか」 「とりあえず北? 化生(けしょう)の悪影響の確認したい!」 「スレインに行くか? 本場(・・)が見れるぞ?」 「うわあ~!」  軽口をたたきながら、二人並んで歩きだす。  ──わたしね?  彼と一緒に《思い出の人》を探すんだ。  『エリックさんが生きる力をくれた人』。  『彼をここまで導いてくれた人』。  その人にお礼を言いたい。  ──”あなたのおかげで、わたしは世界を知れました”って。  それと……  『一緒に居ればそのうちチャンスが回ってくるかな』ーって……密かに思ってるのは、わたしだけのひみつ。 ☆☆  ──それは、旅立ちの日。  彼、エリック・マーティン──いや、エリック・スタイン陛下は、城門の内側でひそかに胸を躍らせていた。  意識せずとも頬が緩む。鼻歌まで漏れ出しそうだが、そこはぐっと堪えて荷物を詰める。  まずはどこに行こうかと想いを馳せる彼の、その頭の上から。聞きなれた側近の声は、確認する色で降り注いだ。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加