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前に焼肉店で会った女性は、玲伊さんにシャンプーしてもらうのは最高の癒し、と言っていたけれど。
わたしにはそんな余裕、まるでない。
ドキドキしすぎて、癒しどころか、さらに疲れが増してしまいそうだ。
こっちへと言われたので、わたしもブースに入った。
鏡の前に座り、前にもつけてもらった黒のケープをかけ、髪をとかしてもらう。
「だいぶパサついているよ。でも、段がついていなくて良かった」
「髪を結ぶことが多いので、段は入れないようにしていて」
鏡のなかの玲伊さんはにっこり微笑んだ。
「いや、助かったよ。さすがに髪の毛の成長を速めることはできないからね。今回のプロジェクトでは、ストレートの黒髪の美にこだわりたいんだ」
「はあ」
ストレートの黒髪の美ねえ。
そのモデルがわたしでいいのかな。
本当に。
「今日はシャンプーとヘッドスパとトリートメントをするよ。仕上がりを見て、これからの回数を決めるから」
「はい」
「じゃ、椅子、動かすよ」
玲伊さんがスイッチを押すと、セット椅子は機械音を立てながら、なめらかに洗髪台の方に動いていった。
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