第5章 〈レッスン2〉 アフタヌーン・キス

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 前に焼肉店で会った女性は、玲伊さんにシャンプーしてもらうのは最高の癒し、と言っていたけれど。  わたしにはそんな余裕、まるでない。  ドキドキしすぎて、癒しどころか、さらに疲れが増してしまいそうだ。    こっちへと言われたので、わたしもブースに入った。  鏡の前に座り、前にもつけてもらった黒のケープをかけ、髪をとかしてもらう。 「だいぶパサついているよ。でも、段がついていなくて良かった」 「髪を結ぶことが多いので、段は入れないようにしていて」  鏡のなかの玲伊さんはにっこり微笑んだ。 「いや、助かったよ。さすがに髪の毛の成長を速めることはできないからね。今回のプロジェクトでは、ストレートの黒髪の美にこだわりたいんだ」 「はあ」  ストレートの黒髪の美ねえ。  そのモデルがわたしでいいのかな。  本当に。 「今日はシャンプーとヘッドスパとトリートメントをするよ。仕上がりを見て、これからの回数を決めるから」 「はい」 「じゃ、椅子、動かすよ」  玲伊さんがスイッチを押すと、セット椅子は機械音を立てながら、なめらかに洗髪台の方に動いていった。
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