プロローグ

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プロローグ

 クリスタルをちりばめたシャンデリアが室内をまばゆく照らすビューティー・サロンの一室。  今、ここにいるのは彼とわたし、ふたりきり。   「じゃ、はじめるよ」  耳に入ってくるのは、少しかすれた艶のある声。  普段、話をしているときとは、まるで違って聞こえる。 「力が強すぎて痛かったら、言ってくれる?」  充分に濡らされたわたしの髪に彼の指が差しこまれ、シャンプーを優しく泡立てはじめる。 「少し頭、上げてくれるかな」  彼は左手の指を立てて優しく首を支えて、後ろ髪を洗う。  シャンプーに混じって、かすかに香るコロンは、樹木を思わせる甘さの少ないもの。  それが感じられるほど接近しているのだと思うと、苦しいほど胸が高鳴ってゆく。  今、わたしの髪を洗っている彼の名は、香坂玲伊(れい)という。  父親は大手不動産会社である香坂ホールディングスの代表取締役社長。  つまり、バリバリの御曹司。ただ、兄が三人もいる彼は、家業を継ぐことはなく、まったく畑違いの美容師となった。  わたしより4歳年上の29歳。  都内有数の美容専門学校卒業後、単身ニューヨークに渡り、たった2年で世界的な有名サロンのトップスタイリストに昇りつめた。  そして今や、一番予約が取りにくいカリスマ美容師として評判の有名人だ。  
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