第6章 〈レッスン3〉 ハグ+キスの真の効用

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第6章 〈レッスン3〉 ハグ+キスの真の効用

 外が白んでから、それでも1時間ほど眠ることができた。  少しでも寝たことで、昨日、あれほど混乱していた頭は意外なほどクリアになっていた。  そうなると襲ってくるのは、穴に潜りたくなるほどの、羞恥と後悔の波。  わたしを追いかけて、店に来てくれた玲伊さんの顔が浮かんでくる。  なんで、あんなに頑なに拒絶してしまったんだろう。  あれほど真剣な表情で話がしたいと言ってくれていたのに。    洗面所の鏡に、ひどい顔が映っている。  寝不足の上に目が腫れている。  水で濡らしたタオルを絞り、目に当てる。  昨日のおばあちゃんの言葉も、脳裏によみがえる。 (全部、自分ひとりで考えていることだね。玲ちゃんと話し合ったことはないんだろう)  タオルの冷たさとともに、おばあちゃんの言葉が心にしみてゆく。  本当にその通りだと、今ならわかる。  玲伊さんに失礼な態度を取ったことをきちんと謝って、それから自分の気持ちを伝えよう。  悩むのはそれから後のことだ。  それに、最初からつらくなることを覚悟でモデルを引き受けたのだ。  彼が笹岡さんと付き合っていたとしても、それを理由にやめることなんてできない。  最後まで責任を持ってやりとおさなければ。  そこまで考えがまとまり、気持ちが少しだけ上向いた。    
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