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眺めるべき花のないお花見。大いなる矛盾を孕んだこの時間は、背後で宴を続けている彼や彼女らには花なんぞどうでもよくて、ただ適当な口実を見つけて騒ぎたいだけだということの表れだろう。大学生なんてそんなものだと思うのは僕も同じだが、漠然とした不安感というか焦燥感というか、とにかく得体の知れない感情が極限まで希釈されて、この瞬間も少しずつ夜が近づいている世界の中に溶け込んでいる気がする。
このままなんとなく勉強を続けて、単位が取れたというだけですべてを知った気になって、社会に出た瞬間それらがなんの役にも立たず、むしろ僕らは本当に学ばなきゃいけなかったことを何ひとつ学ばないままここまで来てしまった現実を知って慟哭しながら心が死ぬ。それでもなんだか知らないが大多数の人間には家族ができて、数十年も家と職場の往復をせっせと続け、いずれは生物学的にも死ぬ。そう思ったら、僕らはまさに死ぬために生きているような気さえしてくる。
子供が社会へ出るまでにかかる費用は、概ね二千万から三千万だと聞いた。そこからはかつての子供だった大人が自分で日銭を稼ぎ、自分が死んだ後始末をさせるための費用までせっせと貯めて、あまつさえ死んだあとに遺された家族が揉めないよう、事務的な内容の遺言まで残さなければならないらしい。もっとも、僕にそんな心配はない。打算や計算のためだけに人間関係を形成しようとしている僕のような人間に、家族ができるなどという未来が見えないからだ。
考えてみれば、どんな花も咲いてしまえば、いずれは散る運命にある。プリザーブドフラワーは生花みたいにみずみずしい状態のまま保存することができるが、それは花にとって幸福だろうか。なんなら、死んだように生かされているようなものではないか。もしも、棺にぶちこまれる一歩手前のままピチピチな状態でご遺体を保存できますよ……と言われたら、僕は自分で歩いて棺の中に寝っ転がって、おう親父とっととこんがりウェルダンにお願いしますよと言い放ち、内側から自分でコンコンと釘を打つ。本当に命が大切だというのなら、花が自らの命を散らせているさまを眺めつつ、ああ美しいな風流でこの国らしいなあなどとほざいて酒を飲む文化は、世界中にのさばっているプロ市民たちが今すぐ滅ぼしていないとおかしい。
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