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「せんせー」
私は晃先生を呼んだ。
彼は私の声に気付いて振り向くとにっこりと微笑んで私の元へ近付いて来た。
「山田、卒業おめでとう。受験よく頑張ったな。大学に行っても頑張れよ」
「ありがとうございます、先生」
私がそう返すと晃先生は「じゃあ」と挨拶して去ろうとしたが、私は慌てて先生を呼び止めた。
「あの、先生、私・・・」
「うん?」
私はなかなか次の言葉が出せず、代わりに顔だけが赤くなる。
先生はそんな私を怪訝そうに見つめる。
「あの・・・、私・・・。先生のこと、ずっと、好きでした・・・」
私は先生に告白したものの、彼の顔を見ることができなかった。
そしてお互いに向かい合ったまましばらく沈黙した。
その沈黙を先に破ったのは晃先生だった。
「山田、俺のことをそう思ってくれていたのはすごく嬉しいよ。ありがとう。でも、山田の気持ちには応えられない」
「えっ・・・」
私は心臓をギュッと掴まれ、全身に冷たいものが走る感覚に陥った。
弾かれたように先生を見ると、彼は申し訳無さそうな、困ったような顔をしながら言葉を続ける。
「あくまでも俺たちは教師と生徒だ。確かに稀に卒業したら付き合う人たちもいるけど、俺にはできない。それに俺、最近彼女ができたんだ。だから・・・悪いな」
『あぁ。私の一方的な片想いで、先生を困らせただけだったんだ・・・』
私は鼻の奥がツンとなるのを感じたが、それを悟られまいとして精一杯の笑顔で言葉を返す。
「そうですよね。先生に彼女ができて良かったです。一生できないかと思って心配してました」
「余計なお世話だよ」
先生も精一杯の笑顔で返してくれる。
「へへっ。彼女さんとお幸せに」
「ありがとうな。お前も大学生活、それから先の人生楽しむんだぞ」
私は小さく頷くと、踵を返してその場を後にした。
これから友人たちと合流するというのに涙が堰を切ったように溢れては頬を伝って流れ落ちていった。
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