第二話

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 一華ははっと我に返った。  昨日のことを思い返していたせいでテープを手に持ったまま、動きを止めていたようだ。  彼女はぎゅっと目を瞑ってその記憶を振り払うと、再び瞳を開けてテープを貼り始めた。  幸い、顔は平手打ちされただけだったので痣はできていないのだが、腕や脚は大小さまざまな痣ができてしまっている。  一華は一つひとつ、何の表情も浮かべずにただ淡々とテープを貼っていった。  最後のテープを貼り終えたところで教室の扉が開き、学生たちがぞろぞろと入ってきた。  その中で、一人の女子学生が一華の姿を認めると、嬉しそうな、安堵したような表情を浮かべて彼女の隣へやってきた。  その女子学生は、先ほど学食で友人と一華の心配をしていた学生のうちの一人だった。  彼女は肩で切り揃えた髪をゆらゆらと揺らしながら一華の様子を伺う。 「一華、大丈夫?大学で姿見かけなかったから心配したよ?」 「由依・・・。ありがとう。大丈夫だから」  由依は軽くため息をつきながら彼女の隣に座り、口を開く。 「嘘でしょ、大丈夫じゃないでしょ。全然元気無いし」 「そんなことない。バイトが忙しくて疲れただけ」 「本当に?」  由依は訝しげに一華を見るが、思い切ってある言葉を口にした。 「ねえ、卒業してから晃先生に会った?」  晃の名を聞いた途端、一華の瞳は揺れ、激しく動揺しているのが伝わってきた。 「…会ってない」 「そうか…。あ、ねえ、久しぶりに会いに行ってみたら?」  由依はそう声を掛けるのが精一杯だったが、それに対して一華はぶっきらぼうに答えた。 「行かない。会う気にならない」 「そっか、普通そうだよね。ごめん」  それから二人の間に沈黙が流れたが、お互いに何かを発する前に教授が講義室にやってきて授業を始めた。
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