第一話

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「確かに、莉子も私も昔から運動音痴で体育苦手だったよね」  杏樹ちゃんがそう言ってケラケラと笑うが、莉子さんは彼女に言い返す。 「良いじゃん杏樹は。平均台は上手かったんだから」 「いや、平均台なんて一年のうちの少しでしょ。それだけ良くても意味ないじゃない」 「私、それすら良くなかったんだけど」  彼女はそう言ってプッと膨れるが、ますます小動物さが増しており、俺は笑うのを必死で堪える。  するとそこへ全員のガレットが順に運ばれてきた。  目の前に置かれたガレットのそば粉の香ばしい匂いとベーコやンクリームソースの香りが鼻腔をくすぐる。  杏樹ちゃんが皆にフォークとナイフを配ってくれながら「早速食べましょう」と促す。  俺はガレットの上に乗った黄身を割る。  黄色のトロトロとした卵液がガレットいっぱいに広がる。  そのガレットを卵液やベーコンたちと一緒に運ぶ。  皮はサクッとした部分とモチっとした部分とがあり、面白い食感だ。  そして卵液とベーコンのうまみも口いっぱいに広がり美味しい。 「これ、美味しいですね」  杏樹ちゃんが嬉しそうに言うと岳人も「そうだな」と笑う。  それを見ていた莉子さんも俺をチラッと見て微笑んできた。  照れながら笑う彼女のなんと可愛いことか。  俺も微笑み返すが、彼女はさっと目をそらしてガレットを食べ始めた。 「莉子、それ美味しい?」  杏樹ちゃんは彼女を気にするように声を掛けた。 「うん、とっても美味しいよ」 「良かった。晃さんはどうですか?」 「あ、美味しいよ。すごく。初めて食べたけどクセになりそう」 「良かった。前に岳人さんと二人で来て美味しかったから今日もここにしたんです」 「そうだったのか。だから岳人が良い店を知ってた訳か」 「どういう意味だよ」  岳人が俺を小突く。  杏樹ちゃんはそれを見てクスクス笑うが、莉子さんはそれを見て少し目を丸くする。  それから俺たちはガレットを食べながら共通の話題や好きなものについて話した。  相手はどう感じているのか分からないが、俺としては莉子さんと話すのは楽しい。
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