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一華は卒業式で晃に振られた後、自分の中で懸命に吹っ切ろうとした。
しかし、大学での新しい生活が始まってから彼女の目に映るのは体育学部の学生たちだ。
どうしても晃と彼らを比べてしまう。
結局、彼女の中で彼以上の男はいないのだ。
けれど、卒業してからは一度晃に会いに行っていない。
気まずい雰囲気になるのは火を見るより明らかだし、何より会いに行くのが怖い。
一華の中で、卒業式にしたあの告白でによって、二人はただの教師と教え子の関係ではなくなってしまったと感じている。
彼女はまだ誰もいない講義室に入り、席に着くと自分の鞄を漁り始めた。
「あ、あった」
一華は鞄からファンデーションテープを取り出し、服の裾から見える痣の上に貼っていった。
この痣は、昨日ホテルで男に付けられたものだ。
その相手とは、彼女が一緒に歩いているところを見られたあの男だ。
彼女とその男とは街で出会った。
街を歩いているとたまたま彼に声を掛けられた。
どう見ても遊んでいそうな印象を受ける男だったが、とにかく寂しさを紛らわせたかった彼女はそのままその男の誘いに乗ってしまった。
彼女は無表情で痣にファンデーションテープを貼りながら昨夜の事を思い出していた。
『こんなに可愛い君を選ばないなんてその男、どうかしてるよ。俺なら絶対離さないのに』
その男は酒を呑みながら彼女の耳元でそんな甘い言葉を囁き続けた。
まだ男というものを知らない一華がその男の言葉に堕ちるのなど容易だった。
酒の匂いを彼女の顔に吐き掛けながら囁かれる言葉たちに心地よさを覚えた一華は、そのまま男に導かれるままベッドへと向かう。
こんな風に自分の処女を失うとは思いもしなかった彼女は何とも表し難い複雑な思いを抱えていた。
しかし、これから彼女を待ち受けていたのはそんなことなど忘れてしまうほどの恐怖と屈辱だった。
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