悪役令嬢物語が魂に刻まれている

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 アルテミシアは、学生用とは到底思えないゆったりとした椅子の並ぶ講堂で、三席ほど向こうに座るひときわゴージャスな金髪巻き毛で吊り目の美少女の様子をうかがう。  公爵令嬢、セレスティーヌ。  その名前を聞いた瞬間、いくつかの漫画のコマが脳裏に蘇ってきた。  彼女こそ、悪役令嬢。この物語の本来の主役。  そして自分はといえば。 (これはどう考えても「悪役令嬢」ではなく「正ヒロイン」に転生してしまっている、ってことよね)  悪役令嬢ものが好きで、悪役令嬢に感情移入して読み続けてきた前世の自分からして、正ヒロインなどただのお色気担当、清純なふりをしただけのぶりっこ。  他人の婚約者に色目を使うな。  そんなのどう控えめにみてもしょうがなくない、浮気で不倫で略奪だ……!  と、ごく普通に嫌っていた。  いざその立場になってみれば、正ヒロインにもまた事情があることはよくわかるのだが、それでも男に頼る前にできることがあるだろう、と思ってしまう。  前世ではバリバリ働いて稼ぐ独身社畜だった血が騒ぐ。 (ただし仕事は事務全般で、料理は不得意、手作り石鹸や化粧品なんてものとも縁がなく、農業等異世界でチートできる知識もない。ここが「なんらかの漫画」までは思い出したけど、先の展開もヒーローたちも正直ぼやっとしか思い出せない……!)  転生意味なし、詰んでる上に正ヒロイン。  それでも、この物語がなぞるであろうテンプレに関する知識があるだけ、マシかもしれない。  その一、「攻略対象」には近づかない。悪役令嬢とその取り巻きに目をつけられないようにする。  その二、もし物語の強制力で接触が避けられない場合は、絶対に彼らに好かれないように行動する。もちろん嫌われようと奇行に走ったあげくの「おもしれー女」枠もごめんだ。  その三、悪役令嬢を全力応援する。要するにそこの恋愛がうまくいけば、無関係な平民同然のモブに火の粉は飛んでこないはず。 (「正ヒロイン」が転生者ってことは、だいたい「悪役令嬢」も転生者よね。あちらにうまいことこの世界の知識+チートがあれば、断罪破滅回避目的で私のことは無視してくれるんじゃないかな。私は私で子爵家脱出計画のために、勉強に励みます!)  悪役令嬢転生者説に淡く期待をかけて、入学式を終えた。  そして学生生活が幕を開ける。  期待はすぐに裏切られた。  * * *
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