20人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「……なんてね」
カウンター席のタッチパネルで注文を済ませ、水をひと口飲んだ。
今日はなかなか忙しかった。まともに飲み食いもしていない。
おかげで勤務時間中、ずっと腹が鳴っていた。
ああ、胃も食べ物を欲してるんだな……などと考えたら、変な想像が浮かんできてしまったのだ。
手も口も、一応は脳も仕事をし、仕事のことを考えているのだが、一方では妙なことを考えてしまう。ある種の、現実逃避ともいうべきか。
その甲斐あってか――いや、ないかもしれないが、仕事の山は無事に越えた。
ようやっと、解放された。
さあ、思いっきり、ご飯を食べようではないか。
平日の夜8時。周りの客はまばらで、ほとんどが1人で来店していた。みんな、自分と同じ仕事終わりだろうか。
「お待たせしました、からあげ定食です」
後ろからかけられる店員の声。これ、この瞬間が至福。
眼前に現れた、からあげと白飯。仕事中あまりに腹が減っていたのと、自分へのご褒美と称して、ご飯を大盛りにしてやった。
「いただきます」
割り箸をパキッと割る。やや下手な割れ方をしてしまったが、からあげ定食を前にした今、そんなことはさしたる問題ではない。
茶碗を左手に、右手で持った箸で、からあげをつまむ。
かぶりついたら、衣のカラッとした食感と、肉の旨みと柔らかさ、それから熱さが一気になだれ込んできた。
「熱っ」
思わずつぶやいて、ほんの少しとどまる。
改めてからあげを口に押し込み、続けてご飯を放り込んだ。
美味い、もう少し。や、まだ入れたい。
おかずが美味であればあるほど、対するご飯の量は増えていく。
よく、甘いものとしょっぱいものを交互に食べたくなるというが、からあげと白飯の組み合わせは、まさにあれではなかろうか。
からあげの美味さの裏には、程よいしょっぱさがある。
白飯の美味さの裏には、程よい甘みがある。
他のおかずも、きっとそうだ。だから、白飯が止まらなくなるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!