内線番号5890

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「……なんてね」  カウンター席のタッチパネルで注文を済ませ、水をひと口飲んだ。  今日はなかなか忙しかった。まともに飲み食いもしていない。  おかげで勤務時間中、ずっと腹が鳴っていた。  ああ、胃も食べ物を欲してるんだな……などと考えたら、変な想像が浮かんできてしまったのだ。  手も口も、一応は脳も仕事をし、仕事のことを考えているのだが、一方では妙なことを考えてしまう。ある種の、現実逃避ともいうべきか。  その甲斐あってか――いや、ないかもしれないが、仕事の山は無事に越えた。  ようやっと、解放された。  さあ、思いっきり、ご飯を食べようではないか。  平日の夜8時。周りの客はまばらで、ほとんどが1人で来店していた。みんな、自分と同じ仕事終わりだろうか。 「お待たせしました、からあげ定食です」  後ろからかけられる店員の声。これ、この瞬間が至福。  眼前に現れた、からあげと白飯。仕事中あまりに腹が減っていたのと、自分へのご褒美と称して、ご飯を大盛りにしてやった。 「いただきます」  割り箸をパキッと割る。やや下手な割れ方をしてしまったが、からあげ定食を前にした今、そんなことはさしたる問題ではない。  茶碗を左手に、右手で持った箸で、からあげをつまむ。  かぶりついたら、衣のカラッとした食感と、肉の旨みと柔らかさ、それから熱さが一気になだれ込んできた。 「熱っ」  思わずつぶやいて、ほんの少しとどまる。  改めてからあげを口に押し込み、続けてご飯を放り込んだ。  美味い、もう少し。や、まだ入れたい。  おかずが美味であればあるほど、対するご飯の量は増えていく。  よく、甘いものとしょっぱいものを交互に食べたくなるというが、からあげと白飯の組み合わせは、まさにあれではなかろうか。  からあげの美味さの裏には、程よいしょっぱさがある。  白飯の美味さの裏には、程よい甘みがある。  他のおかずも、きっとそうだ。だから、白飯が止まらなくなるのだ。
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