内線番号5890

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 これまでの経験から考えるに、おやつタイムを逃すと、また数時間待たなければならない。いや、全くもって耐えられる気がしない。 「待て、ちょっと待て。Web会議と言ったな」  何十年も生きていると、消化するだけの器官にも多少の知恵がついてくる。 「画面をオフにして、音声だけで参加すればいいだろう。そうだ、一瞬マイクも切ってもらえよ。そしたら、チョコの1つや2つくらい、食えるだろう」 「案としてはいいけどな、そうもいかんのだよ」  脳は、やや言いにくそうにうなった。 「この会議、主が主催してるから」 「そんな奇跡いらねえ!」  胃が絶叫したら、再び腹が鳴った。 「おっと失礼、別のところからも要請だ」  脳は胃との通話をそのままに、対応した。  内線番号、1010。 「こちら膀胱。限界突破。エマージェンシー」  言葉を紡ぐ余裕もないらしい。 「突破はしてないだろ、それくらいこっちにもわかる」  脳の方も、慣れたものだ。 「うーん……あと30分くらいで終わる予定だから、それまで我慢しろ」 「さ、30分……」 「幸い、主は会議に集中していて、トイレのことは意識していない。こっちで何とか気付かせないようにするから、そっちも頑張れ。というか、耐えろ」 「耐えるのはいいけど、椅子から立ち上がった時が心配だなあ」 「成功率100%のお前なら、大丈夫だ」  主の社会的立場を思えば、膀胱には引き続き、成功率100%を維持してもらいたいところである。
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