内線番号5890

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内線番号5890

 最後に食べ物を受け付けたのは、もう数時間前のことか。  コンビニで買った総菜パンと、ヨーグルトと、飲むタイプのゼリー。  中はすっからかんだ。 「そっちはどうだ」  胃は、下にいる十二指腸に尋ねた。 「もうヒマで仕方ないよ」  ふあ、とあくび交じりの返事。 「小腸は?」 「うーん、あらかた片付いたかな」 「大腸は?」 「多少残ってるけど……全然入るぜ」 「よし、潮時だろう」  胃は手元の受話器を取ると、ぐうう、と腹を鳴らした。  ところ変わって、こちらは脳にあるコールセンター。  体中のあらゆる部位からの要望、SOSを受け付けて対応する。  人間が感じることから、自覚していないものまで、全てをここで処理するのだ。その忙しさたるや、半端なものではない。  ひっきりなしに電話が鳴り、やれ足の裏がかゆいだの、瞼がくっつきそうになるだの、みんな自由に訴えてくる。  それらのすき間に、またコールが鳴り響いた。  内線番号、5890。 「あい、こちら脳」  何十年もやっていると、応対も簡素なものだ。  そもそも、みんな身内だから、変に気を使う必要もない。 「消化器官は、みんな空っぽだよ」 と胃が言った。 「最後に食べて、何時間たった?」 「今が15時半だから、3時間くらいか。夕飯の時間は、まただぜ」 「15時と言ったな? じゃあ、3時のおやつを要請する」 「残念だったな。今、主はWeb会議ってやつに出てる。おやつもしばらくお預けだ」 「何!?」  胃は愕然とした。
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