20人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
内線番号5890
最後に食べ物を受け付けたのは、もう数時間前のことか。
コンビニで買った総菜パンと、ヨーグルトと、飲むタイプのゼリー。
中はすっからかんだ。
「そっちはどうだ」
胃は、下にいる十二指腸に尋ねた。
「もうヒマで仕方ないよ」
ふあ、とあくび交じりの返事。
「小腸は?」
「うーん、あらかた片付いたかな」
「大腸は?」
「多少残ってるけど……全然入るぜ」
「よし、潮時だろう」
胃は手元の受話器を取ると、ぐうう、と腹を鳴らした。
ところ変わって、こちらは脳にあるコールセンター。
体中のあらゆる部位からの要望、SOSを受け付けて対応する。
人間が感じることから、自覚していないものまで、全てをここで処理するのだ。その忙しさたるや、半端なものではない。
ひっきりなしに電話が鳴り、やれ足の裏がかゆいだの、瞼がくっつきそうになるだの、みんな自由に訴えてくる。
それらのすき間に、またコールが鳴り響いた。
内線番号、5890。
「あい、こちら脳」
何十年もやっていると、応対も簡素なものだ。
そもそも、みんな身内だから、変に気を使う必要もない。
「消化器官は、みんな空っぽだよ」
と胃が言った。
「最後に食べて、何時間たった?」
「今が15時半だから、3時間くらいか。夕飯の時間は、まただぜ」
「15時と言ったな? じゃあ、3時のおやつを要請する」
「残念だったな。今、主はWeb会議ってやつに出てる。おやつもしばらくお預けだ」
「何!?」
胃は愕然とした。
最初のコメントを投稿しよう!