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腰に回された腕を宥めるようにそっと撫でると、渋々といった風情で力を弱める。
エドアルドから身体を離しベッドへと近付くと、光が更に強くなり、ベッドを囲む様に伸びていた光がほろほろと崩れるように消えた。
ベッドを見渡し、枕やシーツを捲ってみても何もない。
膝をつきベッドの下を覗き込むと、そこに白い箱があった。こんなところにある箱なんて、嫌な予感しかしない。
「箱があるわ」
あの魔法はこれを隠していたのだろう、箱を取り出すと光の鎖がグルグルと巻かれていた。さっと手で払うと、簡単に鎖は消えてなくなった。
「何かしら……」
ベッドの上に箱を置き、入口に立ったままのエドアルドを振り返る。難しい顔をしたままの彼はじっと私を見つめたまま何も言わない。
(不安なのかしら)
自分の知らない私の姿があることに、とても抵抗を見せていたエドアルド。今まさに、彼の知らない私が現れるかもしれないのだ。
「……エドアルド様」
そう小さく呼ぶと、エドアルドの表情がふっと和らいだ。私に近付いた彼は腰に手を回し、抱き締めるように背後に立つ。
「調べに来た者たちの目を掻い潜れるほど、厳重に隠した君の秘密は何だろうね」
エドアルドの呟きは不穏な響きを持っていて、私の気持ちもざわざわと落ち着かない。エドアルドに隠すこと。誰の目にも留まらないように、厳重にかけた魔法の鎖。
「一緒に見てみましょう」
「いいの?」
「きっと、エドアルド様に知られて困るようなことはないと思うから」
そう言うと、背後でふっと笑う気配がした。耳元に寄せられた熱い唇が触れて、顔が熱くなる。いつもこうだったのかもしれないけれど、やっぱり触れ合いは恥ずかしい。
「記憶を失っても、君は君のままで嬉しいよ、ルディ」
背後から手を伸ばし箱に手を掛けるエドアルド。私もそれに倣い同じように箱に手をかけ、無言のまま二人で箱の蓋を開けた。
「……えっ?」
しばらく無言のまま私たちは箱の中身を見つめた。
そしてそれが何か理解した途端、じわじわと身体が熱くなっていった。
(こ、これってまさか……!)
それは、真っ青なレースの肌着だった。しかもかなり肌の露出が高い。
慌てて蓋を閉めようとしても、エドアルドの手に阻まれる。
(待って待って待って、これは何!?)
「……これは何?」
エドアルドの声が低い、怖い。
「し、知りません!」
「なぜこんなものが君のベッドの下にあるの? 俺だって足を踏み入れたことがない、この場に?」
「わ、私のものじゃないかもしれないでしょう?」
「君の部屋だよね」
「そうかもしれないけれど、ほとんど滞在してないんですよ!?」
「でも君の魔力の鎖で覆われていた」
「それはそうだけど!」
「いつ着るつもりだったのかな」
エドアルドはそう言うとそのレースの下着を手に取り持ち上げた。
小さな三角にしか見えないそれは、多分胸を隠すものだろう。薄いレースでは何ひとつ隠せる気がしないけれど!
背後に立つエドアルドの腕は私の腰をがっしりと掴み離さない。空いた方の手でまるで検めるかのように箱の中身をひとつひとつ取り出しベッドに置いていく。
あああ、全く身に覚えがないのに恥ずかしすぎる!
箱の中身を全て出してしまうと、そこから白いカードが出て来た。
(やめて、もう何も出てこないで!)
エドアルドは無言のまま封筒を手にすると、くるりとカード裏返した。
「「……え?」」
思わず声を揃えた私たちは、互いの顔を見て目を丸くし言葉を失った。
真っ白なカードには
『愛するルドヴィカへ ――貴女のエドアルド』
と、書かれていた。
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