52人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
捨てた手紙
「ちょっと待ってて」
朝、玄関を出る前に、ショータが家の辺りを見に行ってくれた。
「大丈夫そう。行こう」
昨日わたしがソファで眠っているうちに荷物が届いたのか、ショータは最初に会った時とは違う服を着ていた。
怪我のことをわたしが気にすると思ったんだろうな。Tシャツの上に長袖のシャツを羽織っている。
一番近くの警察署に行って、ショータが言ったとおり、「変な人が家の周りをうろうろしている」と訴えて、パトロールを増やしてもらうことになった。
何か心当たりがあるかと聞かれたけれど、それにはわからないと答えた。
痴漢の類だと思われたのか、深くは突っ込んで聞かれなくてほっとした。
外にいる間中、ショータはずっと後ろを気にしていたけれど、わたしの方は、近所のスーパーで買い物をして帰る頃には、怖かった記憶もマシになっていた。それで、そのうち捕まるんじゃないかとか、もう来ないんじゃないかとか、楽観的に思うようになっていた。
家に着いて、ポストの中の郵便物を取り出し、部屋に入るとリビングのテーブルの上に置いた。
一度部屋に戻ってからもう一度リビングに降りると、ショータは誰かと電話をしていた。
聞かれたくないのかわたしの姿を見ると、話しながら2階に上がってしまった。
それで、さっきテーブルの上に置いた郵便物をひとつひとつ見ていった。
ほとんどがDMの類だったけれど、ひとつだけ、表に「安曇きらへ」とだけ書かれたA4の茶封筒があった。
裏には差出人の名前もない。
もう一度表を見て気が付いた。住所が書かれていない。
直接ポストに投函したんだ。
また心臓がどくどくと早くなった。
ママ宛にはなっていたけれど、そんなこと関係ない。
ハサミで封を切って中を見ると、何か書いてある紙が1枚だけ入っていたので封筒から取り出した。
便せんの端から端まで、一面に殴り書きされた「許さない」の文字。
ショータはまだ2階から降りて来ていない。
これはただの手紙。
いらないDMと一緒に、ゴミ箱の横に置かれたシュレッダーにその手紙を入れた。
最初のコメントを投稿しよう!