捨てた手紙

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捨てた手紙

「ちょっと待ってて」 朝、玄関を出る前に、ショータが家の辺りを見に行ってくれた。 「大丈夫そう。行こう」 昨日わたしがソファで眠っているうちに荷物が届いたのか、ショータは最初に会った時とは違う服を着ていた。 怪我のことをわたしが気にすると思ったんだろうな。Tシャツの上に長袖のシャツを羽織っている。 一番近くの警察署に行って、ショータが言ったとおり、「変な人が家の周りをうろうろしている」と訴えて、パトロールを増やしてもらうことになった。 何か心当たりがあるかと聞かれたけれど、それにはわからないと答えた。 痴漢の類だと思われたのか、深くは突っ込んで聞かれなくてほっとした。 外にいる間中、ショータはずっと後ろを気にしていたけれど、わたしの方は、近所のスーパーで買い物をして帰る頃には、怖かった記憶もマシになっていた。それで、そのうち捕まるんじゃないかとか、もう来ないんじゃないかとか、楽観的に思うようになっていた。 家に着いて、ポストの中の郵便物を取り出し、部屋に入るとリビングのテーブルの上に置いた。 一度部屋に戻ってからもう一度リビングに降りると、ショータは誰かと電話をしていた。 聞かれたくないのかわたしの姿を見ると、話しながら2階に上がってしまった。 それで、さっきテーブルの上に置いた郵便物をひとつひとつ見ていった。 ほとんどがDMの類だったけれど、ひとつだけ、表に「安曇きらへ」とだけ書かれたA4の茶封筒があった。 裏には差出人の名前もない。 もう一度表を見て気が付いた。住所が書かれていない。 直接ポストに投函したんだ。 また心臓がどくどくと早くなった。 ママ宛にはなっていたけれど、そんなこと関係ない。 ハサミで封を切って中を見ると、何か書いてある紙が1枚だけ入っていたので封筒から取り出した。 便せんの端から端まで、一面に殴り書きされた「許さない」の文字。 ショータはまだ2階から降りて来ていない。 これはただの手紙。 いらないDMと一緒に、ゴミ箱の横に置かれたシュレッダーにその手紙を入れた。
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