朝の訪問者

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朝の訪問者

朝早めに起きて朝食の準備をしていると、ショータが2階から降りてきた。 「紗羅、なんでそんな首元までシャツのボタンきっちり閉めてるの?」 こいつ、わかってて聞いてきてる。 「変な虫に噛まれたから! 予備校あるんでしょ? 何時から?」 「そのことなんだけどさ、俺やっぱ帰るから」 「え?」 キッチンカウンターの向こうからショータが身を乗り出してきた。 「俺、一緒にいたら、紗羅に手出すよ?」 「何バカなこと言ってんの?」 「真面目に言ってますけど?」 こんな展開も想像してなかった。 何て言うべきか悩んでいた時、ドアフォンが鳴った。 「誰だろ? 朝早くから」 さっと手を洗って、玄関のカメラをONにすると、帽子を被って青いシャツを着た男が映っていた。 「宅急便です」 「はい、すぐ出ます」 インターフォンを切って、ショータに聞いた。 「荷物届いたんじゃないかな。たくさんある?」 「さぁ……」 急いで玄関に向かうとドアを開けた。 ドアの前に立っている男は何も持っていない。 「荷物は?」 いきなり、ドンっと押されて、尻餅をついてしまった。 「安曇きらは?」 安曇きらは、ママのペンネームだった。 「いない」 「嘘つけ! あいつ滅多に外出しないだろ」 「でも、本当にいない」 「隠すつもりか」 「隠してない。あなた誰?」 「オレは、安曇きらにネーム盗まれた者だよ」 「盗んだ?」 「そうだよ! 今月号の読み切り! あの話はオレが考えたものだった。それを安曇きらが勝手に使いやがった!」 「待ってよ、どうやって盗むの?」 「先月、オレが手紙を出したんだよ、感想を聞きたくて。それを利用された!」 それは、ありえない。先月出した手紙だと言うなら、ママはまだ読んでいないはず。ファンレターには目を通してるけど、多すぎて、確か3か月前くらいのものをまだ読んでいる途中。 そもそも、今月の読み切りは、先月よりもっと前に原稿が出版社に渡ってる。 「ねぇ、とりあえず落ち着こうよ」 「お前も……ぐるか……」 ダメだ。話が通じない。 男がポケットから折り畳みナイフを出した。 「立て。安曇きらのとこまで案内しろ」 いない人のところにどうやって案内しろっていうの? どうしたらいい? 考えて―― 男に促され、リビングに入るドアを開けた時だった。 「紗羅、しゃがめ!」 その声でその場にしゃがんだ。 ゴツっという音がして、しゃがんだままの状態で顔を向けると、男がよろけて後ろに下がっていた。 ショータがぐいっと、わたしの腕を掴んで自分の後ろに引っ張った。 その拍子に倒れ込んでしまったけれど、そのまま這って、テーブルの上のスマホを取りに行った。 男はショータに向かって闇雲にナイフを振り回している。 「痛ーっ! お前、ムカつく!」 ショータの声がして、見ると、腕から血が出ていた。 急がないと。 スマホを持って叫んだ。 「知らない男がナイフを持って暴れてるんです! 急いで来てください!」 それを聞いた男は、くるっと向きを変えると、すごい勢いで走って出て行った。
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