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怖くない
「ショータ! 大丈夫?」
急いでショータのところに向かうと、ショータが自分の傷を舐めていた。
「病院へ」
「大したことない。ちょっとかすっただけ」
目の前に差し出された腕は、表面にスッと赤い線が見えたものの、ショータの言うとおり、すぐに消えそうなくらいの傷だった。
「消毒しないと」
「これくらい、舐めてりゃ平気だって」
「だめ! 言うこと聞いて!」
「それより警察は?」
「呼んでない」
「え? さっき……」
「手が震えて、緊急通報のアイコンがタップできなくて、咄嗟に叫んだけ」
「だったら今からでもすぐに警察を」
「いい」
「なんで?」
「警察は呼びたくない」
「何言ってんの? あの男逃げたままなのに? あいつまた来たらどうすんの?」
「ごめんね……ショータは怪我したのにこんなこと言って」
「こんなの怪我に入らない」
「ショータがいたら怖くない。でも、誤解しないで。あいつをどうこうして欲しいわけなじゃい。そばにいてくれるだけでいい。それだけで心強い。次からは気をつけるから」
「バカなの?」
そこでショータの顔を見たら、途端に涙がこぼれた。
「なんだろ……今頃になって……やだ……何これ……ほっと……したのかなぁ」
涙を拭った自分の指が震えているのに気がついた。
ショータは何も言わずに、わたしを引き寄せると、ぽんぽんと優しく背中を叩いた。
「シャツ濡れる」
「いいよ、すぐに沙羅を押し倒して脱ぐから」
「ふざけないでよぉ……」
「まじめに言ってるって、さっきも言ったじゃん」
それでも、ショータはそのまま、ずっと、わたしの背中をぽんぽんとしているだけだった。
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