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不可抗力
温めたミルクの入っているマグを、ソファに座っているわたしに手渡すと、ショータはすぐ隣に座った。
「子供の頃、よく母親がくれた。飲んだら落ちつく」
「ありがとう」
ホットミルクには少しだけ砂糖が入っていて、甘い味がした。
「聞かせてくれてもいいと思うけど? どうしてそんなに親に連絡したくない? 俺と2人きりでいたいって訳じゃないんでしょ?」
ミルクの入ったマグがほんのり温かい。
マグを持つ手がじんわりと温かくなって初めて、指先が冷たくなっていたことに気が付いた。
「……お父さん、出て行く時借金残していった。ご丁寧にママの名義で。それをママは黙って返したの。家のローンもあったから、いろんなこと犠牲にして。自分のために旅行とか初めてだと思う。だから、とにかく楽しんで欲しい。それだけ」
ショータは大きなため息をついた。
「わかった。だったら協力する。しばらくの間ここを出て行くのは止めるよ」
ショータの顔を見入ってしまった。
「俺が紗羅を守る」
真剣な顔のショータは、かっこよくて、本当に、わたしってちょろいのかもしれない。
「何?」
「ショータ、かっこいいなぁ、って思って」
「煽んなよ、姉ちゃん」
マグを持つわたしの両手に、ショータの大きな右手が重なるようにふれる。
そのまま、わたしが飲みかけのホットミルクをショータも一口飲んだ。
「甘っ」
上目遣いにわたしのことを見るショータと目が合った。
どうしよう……
ショータが、自分を支えるように左手をわたしのすぐそばに置いたから、左肩がわたしの右肩にふれて……
きっと、これは……不可抗力。
そのまま、お互い引き寄せられように、キスをした――
「――っ」
ショータが顔を近づけたまま言った。
「タイム! この体制きつい」
向きを変えて、今度は腰に手を回そうとしたので、立ち上がった。
「い、今のはノーカウント!」
それだけ言い放って、キッチンにマグを置いてから、急いで自分の部屋に逃げ込んだ。
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