なかったことに

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なかったことに

なんだろう…… いい香り……カレー? はっとして目を開けると、ショータがキッチンでご飯を作っていた。 起きた拍子にかけられていたタオルケットが床に落ちる。 「ショータ、これ、ありがとう」 落としたタオルケットを畳んで置いた。 ショータが、ふっ、と笑った。 「お腹空いたでしょ?」 「うん。あ……今日まだ何も食べてない。カレー?」 「得意なんだ。装うの手伝ってよ」 キッチンへ行くと、コンロに2つ鍋があった。 「こっちは?」 「米。鍋で炊くと美味いから」 ジャガイモの剥き方といい、ショータは料理をする人なんだ。 「いただきます」 スプーンですくって一口食べた。 「美味しい!」 「辛いの大丈夫で良かった」 「悔しいなぁ。わたしより上手かも」 「紗羅」 「何?」 「明日、一緒に警察に行こう」 「その話はしたよね?」 「変な奴がうろうろしてるって言うだけ。パトロール強化してもらうだけでも違うから。それなら親にも連絡いかないでしょ」 「……わかった。ショータの方は予備校どうだった? 行ってたんでしょ?」 「行ってない」 「どうして?」 「必要ないから」 「え? でも?」 「本当に大丈夫。勉強サボりたいから言ってる訳じゃない」 目も合わさずに言われたので、それ以上何も言えず、黙ってカレーを食べ続けた。 あのキス、まるでなかったみたい。
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