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漫画のためなら
確か、3ヶ月くらい前のことだった……
きっかけは、わたしが隠れて読んでいた漫画「僕たちは嘘をついていた」全12巻。
大学生の娘を持つシングルマザーと、高校生の息子を持つシングルファザーが結婚。いきなり姉ができた弟は、最初姉に反抗的な態度をとっていたものの、いつしか恋愛感情を持つようになる。姉の方も生意気な弟にイラついていたものの、最後は両思いになって、両親にも祝福されてハッピーエンド。
こんなの漫画の世界だけだよねー、なんて思いながらも、面白くて全12巻を一気読みしていたのを、見つかってしまった……
「遠田先生の作品、面白いよね……きゅんってするよね……ママの描くのとは大違いだよね……」
あからさまに凹んだかと思うと、ぼそっとつぶやかれた。
「紗羅が……」
ん? わたし?
「紗羅がそういうネタを提供してくれないから、わたしには描けないんじゃん! 最近恋バナもしてくれないし!」
え? まさかの逆ギレ?
そもそもネタを娘に頼るの、おかしくない?
そういうの、他の人はみんな自分の身を削って生み出してるんじゃないかと思うんですけど。
「待ってよ、『そういうネタを提供』って、シチュエーション的に無理だし。だいたい現実社会で透明感のあるイケメンの高校生なんて見たこともない」
「そういう状況で、そういう高校生がいたら、ネタ、提供してくれるの?」
無理ゲー……
こっちはこれまで結構協力してあげてたと思うけど?
ずっと片思いだった先輩に振られた話とか。
だいぶ脚色は入ってたけど、あれって読み切りに使ってたよね?
友達みたいに仲良かった男の子から告られて、女友達がその男の子好きだったから、ちょい複雑な関係になった話も。
それって連載になってたじゃん。
「わたしだって、小さな頃結婚を約束して引っ越してしまった男の子がイケメンになって帰って来たら、恋してあげるよ!」
これは絶対にありえない。
小さかった頃、近所に男の子はいなかったし、周りに引っ越した子もいなかった。
「イケメンの独身がいるシェアハウスでも見つけてきたら、喜んで引っ越してあげるし!」
そんなシェアハウス、テレビ番組でしか存在する訳がない。
「妹に婚約者とられてもいいよ!」
妹も婚約者もいないけど。
あの時、ネタのことしか考えてないママにブチッときて、色々言ったんだった……
「紗羅がさっき読んでた漫画……アニメ化も、実写映画化もされてた……もし、ママが再婚して紗羅にイケメンの義理の弟ができたら、同じようなものが描ける気がする……」
「ねぇ、少しは冷静に考えたら? 『お互いシングルで子供がいる』ここまではいそう。でも、『その子供同士は年が近くて、男の子の方は高校生くらい』。ここでだいぶ対象が減ってくるよね? その上『男の子はイケメンで性格が意地悪』。これもういないよ?」
「探せばいるんじゃないかなぁ……」
「じゃあ探してみれば? しかもそんな子供がいる相手とママは恋愛結婚しないといけないけど、それは大丈夫なの?」
「頑張れば……」
「へぇ。そこまで条件を満たす相手とママが再婚したら、わたしもママの言う通り、ネタを提供してあげるよ」
「約束してくれる?」
「いいよ! 約束ね!」
ママは、メンタル豆腐のくせに、漫画のためだったら、とんでもないことを平気でするような人だってこと、すっかり忘れてた。
それがママとパパの離婚の原因だったって言うのに……
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