来訪者

1/1

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

来訪者

両手に抱えた買い物袋を一旦ドアの前に置いて、暗証番号を押す。 ドアを開けて玄関に入ると、見知らぬ男物のスニーカーと、パンプスが目に入った。 祥太くん? わたしがいない間に家に着いちゃってたんだ。 でも、パンプスまであるって……まさかお母さんと一緒に来たってことはないよね? 急いで家の中に入ると、廊下とリビングを隔てるドアを開けた。 すぐに目に飛び込んできた光景で、その心配は杞憂に終わった。 ソファの上に、上半身下着姿の女性。その上には茶髪の男性がまたがって、キスをしている。 呆然とその様子を見ていると、バタン、ガチャっという音と共に、誰かがわたしの横を通りすぎて行った。そして、すごいいきおいでソファの上の男を女性からひっぺがすと、いきなりグーで殴った。 「ショータ――! 人の彼女に何してんだよ!」 ショータ? 祥太??? 殴られた祥太は、やり返すわけでもなく、床に座り込んだままでいた。 女性はソファの下に落ちていたニットのセーターをあわてて着ると、髪の毛をなでつけた。 その様子を見ていて、女性と目が合ってしまった。 メイクはしていたけれど、顔つきが随分若い。 この子……高校生だ。 誰だかわからない男は、女の子の手首を掴んだ。 「行くぞ!」 男はこっちには見向きもしないで廊下に向かいかけて、立ち止まると 「こんなとこ二度と来るもんか!」 吐き捨てるようにそう言って、リビングを出て行った。 床には、男が買ってきたコンビニの袋がそのまま放置されていて、袋の外にアイスが転がり出ていた。 すぐに後ろの方で玄関のオートロックが閉まる音が小さく聞こえた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加