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初めまして
2人が出て行った後も座り込んだままの祥太に手を差し出した。
「初めまして。あなたのお姉ちゃんの葛良紗羅です。あ、もう戸田紗羅か」
祥太はしばらくわたしの顔を見ていたけれど、やがて口を開いた。
「今の見ても手を差し出すんだ」
「だって、あれ、祥太くんが押し倒したんじゃないでしょ」
「何でそう思う?」
「女の子の方が祥太くんの首に両腕を絡ませてた」
祥太は下を向いたけれど、少しだけ微笑んだように見えた。
「あんたが俺の姉ちゃんって、どういうこと?」
それを聞いてあきれてしまった。
わたしの時のように、祥太も何も聞かされていないんだ。
それよりもっとひどいかもしれない。
「姉」の存在すら聞いていない状態で家に来たんだから……
「わたしのママと祥太くんのお父さんが再婚したから、わたしたち家族になったんだよ。祥太くん高3でしょ? わたしは大学2年生だから、わたしの方が年上。だから、お姉ちゃん」
「自分の母親のこと『ママ』って呼ぶんだ」
「それねぇ……『お母さん』って呼ぶと嫌がるから。子供の頃読んでた漫画の影響で、自分の子供にも絶対『ママ』って呼ばせるって決めてたんだって。祥太くんは受験生なのに環境変わっちゃって大変だろうけど、出来る限りサポートするから」
「ふうん」
「だから、いい加減この手なんとかしてよ。ずっとこうしてるのつらいんだけど」
「ああ……」
祥太は、ずっと差し出したままでいたわたしの手を掴むと、ようやく立ち上がった。
真正面に立つと、祥太くんは思っていたより背が高くて、とても高3とは思えないくらい大人っぽい。
制服を着ていないせいか、大学生はもとより、社会人と言っても通用しそう。
それに、義父とは全然似ていない。
どうやらママは、本当に忠実に、あの漫画を再現したらしい。
一体どうやって探し出したんだろう?
祥太くんは、かなりのイケメンだった。
「『くん』なんてつけなくていいよ。ショータで。俺も紗羅って呼ぶから」
姉を呼び捨てにする義理の弟かぁ。
ママ好きそうだな、こういうの。
「じゃあ、ショータ、今日からよろしくね」
「紗羅のママだっけ? いつ帰って来るの?」
それも聞いてないんだ……
「長ーい新婚旅行に行ったから、ショータが夏休みの間は2人とも帰って来ないよ」
「ママは、初めて会うような男が自分の娘と一つ屋根の下で一緒に暮らすの気にしないんだ?」
気にしないと言うか……むしろネタを望んでいるというか……
「あの人、いろいろ変わってるから」
「ふうん」
「ショータとの間で起きたことは全部報告するよ」
ショータは驚いた顔をした。
「漫画のネタの提供。わたしのママが漫画家なのも知らなかったよね?」
「紗羅は自分の経験が使われるの嫌じゃないんだ?」
「わたしが提供したネタが元にはなるけど、かなり改変されちゃうから、作品になっても原型はとどめてないしね」
「変な女」
ショータはずっと掴んでいたままの手を引っ張って、いきなり距離を縮めてきた。
そして、顔を近づけてくるとキスを……するふりをして、わたしの鼻先をぺろりと舐めた。
「今のも、ママに言う?」
「きっと全国紙にどアップで掲載されるよ」
ショータは、気に食わないとでもいうように、ふんっと鼻を鳴らすと、今度は、わたしの首もとから、着ていたVネックのTシャツの、ぎりぎり端まで、ゆっくりと指を這わせた。
「俺、ママには言えないようなことするかもよ?」
そう言って笑みを浮かべた。
今のは……
少しばかり困ってしまった。
ママは、エロ展開嫌いなんだよね。
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