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弟は反抗なんてしない
想像では、「反抗的なイケメンな弟」は手伝ったりしなくて、『姉ちゃんの作ったものなんか食えるかよ』とか『お前を家族と認めたわけじゃないからな!』とか言って、部屋に閉じこもるかコンビニにいっちゃうはずだったんだけど……
ショータはわたしの横で丁寧にジャガイモの皮を向いては、包丁の顎で器用に芽をとっている。
「何? じっと見てるけど」
「包丁使えるんだ、って思って」
「これくらいできないと」
もしかして、働いてる母親の代わりに家事をやったりしてた?
あの小学生の写真のショータが、甲斐甲斐しく家事をする姿を思い浮かべて、ちょとばかりキュンとしてしまった。
「ありがとう。ついでに薄切りもお願いできる?」
「これ何になるの?」
「ポテサラ」
「だったら皮剥く前に茹でるんじゃ?」
「時短だよ。薄切りにして、耐熱皿に入れてコンソメかけてチンする」
「コンソメ?」
「ショータくんって、本当に料理する子なんだね」
その後も、わたしが唐揚げ用の鶏肉をキッチンバサミで切ってから、ジップロックに入れて、シャカシャカ振って味をなじませてるのを不思議な顔で見ていた。
「楽できるとこは楽しないと、続かない」
「合理的だ」
感心した顔つきで、手元をじっと見られてると変に緊張する。
時々、もっと間近で見ようとしてなのか、わたしの顔の近くに、ショータが顔を近づけてくるから、変に意識してしまう。
「紗羅、もしかして俺のこと意識してる?」
ショータが後ろから抱きしめるようにして、わたしの首元に顔を埋めてきた。
こいつ……
「危ないからやめて」
「紗羅は包丁持ってないじゃん」
「ショータが持ってる」
「だね。だったら紗羅は動かない方がいいよ。危ないから」
何も出来ずにじっとしているわたしの前にショータは手を伸ばして、ジャガイモの薄切りを始めた。
長くて、きれいな指。
料理のために後ろで一つに髪の毛を結んだせいで、普段は髪の毛で隠れてしまっている耳や首筋が露わになっている。そこに時折ショータの息がかかる。
「ごめん! 無理! ギブ!」
叫んだわたしの声で、ショータは包丁をキッチンの奥の方に置くと、耳元で囁いた。
「ちょろすぎるよ、姉ちゃん」
動揺しているわたしをよそに、ショータは面白そうに笑った。
「後はやって。お腹空かせて待ってるから」
そう言うと、手を洗ってリビングに行ってしまった。
こいつ、危なすぎる……
これじゃあ、「反抗的じゃないイケメンの弟」に、わたしの方が早く落ちてしまいそう。
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