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Ⅰ
人間のみなしゃんハロー! あたちはシュピカパパとリジュママの子供のミレイです!
おっとお話はここまで。ターゲットが近づいてきた。今日のあたちはなんと、今日中にコンプリートしなければいけないミッションの真っ只中なのである!
――
(遡ること数十分前)
「ではミレイ、お魚さんの準備はできましたか?」
「はぁい!」
キッチンに、あたちとママとウィルとメイしゃんと。
あたちは意気揚々と力作を広げて見せる。紙いっぱいの虹色のお魚が満面の笑顔を浮かべている。白いエプロンのママとおんなじ笑顔だ。
「ポワソン・ダブリル(Poisson d’Avril)、海を越えた地フレンツの4月のお祭り。この日この国では、お魚さんの形のパイを焼いたり、お魚さんの絵を誰かの背中に張り付けてからかったりするそうです。発祥はいろいろとありますが、ママが気に入っているのは……春になるといろんな生き物たちが動き出すわ。鳥さんたちがお魚さんを狙って狩りをしたりし始めるの。お魚さんだって食べられるのは嫌だから、青い鱗を光らせて海に化ける。
生き残るには真面目すぎてもいけない。強かに、ユーモラスに、身を守るための小さな嘘をついて新しい年を生き延びていくというお話です。
さて、普段この国とは喧嘩ばかりですが、今回はミレイのリクエストにお答えして特別編です! 今年のエイプリル・フールは異文化体験をしてみましょう!」
「イエしゅ!」
そういうことである。本の部屋であたちが見つけたお菓子の本、その中のお魚しゃんのパイが気に入ってママにリクエストしたら、ママはどうせならとこの日に作ることを約束してくれた。それが3日前。そしてこの日というのがつまり今日だ!
「ただ今ウィルのオーブンにはお魚さんのパイの土台が入っています」
ママの言うオーブンの中には、今さっき完成したばかりのパイの土台が、まだ生の、焼けていない状態で入っている。火のバンのウィルは朝に弱いのでまだねむねむしているからだ。
「このパイが焼きあがったら中にクリームを詰めて、今メイさんの持っているボウルの中のイチゴを飾ります。焼き上がるまで、基いウィルが起きるまでまだ時間があるわ」
メイしゃんの方を見ると、メイしゃんはあたちに手(前足)に持った真っ赤なイチゴをふりふりしてみせる。
あたちはお魚しゃんの紙を両手に持ったままシンケンなオモモチでママの次の言葉を待つ。
「あなたのミッションは、そのお魚さんを見つからないようにパパにくっつけることです!」
「うーイエッしゃー!」
パパが今日外に出かけていないのは知っている。ママがそんな風にユウドウしたからだ。
「ミッションが成功した暁には~~」
「アカツキには~~?」
「この中に詰めるクリームに、とっておきのチョコレートのガナッシュです!」
「キャー! あたち頑張るわ!」
と、いうことで、あたちはお魚しゃんの絵を掴んでキッチンを飛び出したのだった。
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