この匙はまだ投げない

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 30分くらい歩き回って見つけた小さな中華料理屋は、風が吹いたら倒れてしまいそうなくらいに小さく、頼りなかった。横開きの扉を開けて、最初に目に入ったのは店の奥に貼られたポスターだ。 「見て見て、大盛りチャーハン30分で食べ切ったら無料だって。面白そうだね」  黙ったままの甥っ子の機嫌を取るように言うと、カウンターの奥から笑い声がした。店主と思しき男が、シンクの台を拭きながら苦笑いしている。 「やめといた方がいい。部活帰りの大学生が3人がかりで食べ切る量ですよ」  女子供には無理だ。声に出てこそいないが、そう言われた気がした。  頭の中が熱くなる。甥っ子の方を気にする余裕もなく、あたしは店主のハゲ頭に向かって注文を告げていた。  彼は大して驚いた様子も見せず「食べ残したら1000円追加料金取りますからね」と告げた。望むところだ。あたしは今、猛烈にチャーハンが食べたいんだ。
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